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ジャーナリストの香取章子氏に聞く
ノラネコエサやり是でも非でもない 「地域の環境問題」と考えたい

   J-CASTニュースの2007年11月8日付記事「ノラネコのエサやり是か非か 全国各地でトラブル続発」は、避妊してエサをやる「地域猫」の活動でさえ問題視されていることを伝えた。エサやり問題は、この記事が1か月間にわたってコメントランキングのトップ10をキープしたほど、読者の関心が強い。そこで、この問題に詳しいジャーナリストの香取章子氏に、解決方法などを聞いてみた。

猫が増えるのは去勢・不妊手術をしないから


――ノラネコのエサやりを、どう見ていますか。

香取 私は、エサをやることについては、是でも非でもないという考え方なんです。エサやりだけをあれこれ言うのは不毛な議論で、感情論になってしまって解決が難しい。5、6年前に東京のある大きな寺院境内で目撃した例ですが、年配の女性が帽子にサングラス、マスク、傘までさしてエサやりをしていました。恐らく苦情を言われたのでしょう。それで、こっそりエサやりしていたんですね。エサやりをする人は、「エサやりをやめろ」と言われても、「死んだらかわいそう」と、やめることはできないのです。

――それは、条件付きでエサやりを認めるということですか。

香取 ということより、地域の環境問題として一緒に考えるべきということです。エサやり派も反対派も、飼い主のいない猫が外にいっぱいいることに問題を感じています。もともと、猫は生物学ではイエネコと言って、野生動物ではありません。古代エジプトの時代に家畜化され、人と生活する伴侶動物です。なので、ノラネコというのは、正確に言えば「飼い主のいない状態にあるイエネコ」。地域で話し合って、数を増やさないようにすることが大切です。

――具体的には、どうしたら減らせるのか、お考えをお願いします。

香取 外で猫が増えるのは、エサをやるからではなく、去勢・不妊手術をしないからです。メスは1回で2~5匹生むとされています。年に3、4回発情期があり、生まれた子猫がまた子猫を生むので、3年間の単純計算で約3000匹というように爆発的に繁殖します。だから、行政とボランティアが協働で飼い主のいない猫を一時保護し、手術を進めることです。私の住んでいる千代田区では、8年前に行政が区民を対象にボランティアを募り、「飼い主のいない猫の去勢・不妊手術費助成事業」が行われています。市民グループ「ちよだニャンとなる会」も発足し、行政とボランティアの二人三脚でこれまでに1300匹の手術が行われました。現在では苦情はほぼゼロと、めざましい効果が上がっています。

エサをやる人は、ボランティア予備軍

――手術にはお金がかかるのではありませんか。

香取 行政とボランティアが協力すれば、お金の問題は解決できるはずです。助成金が出ていなくても、ボランティアがフリーマーケットで資金を集めたりして、前向きに進んでいる地域は少なくありません。飼い主のいない猫が問題になっているのは、都市部です。そもそも都市化によって、こうした猫が浮いてしまったことが問題のきっかけでした。子猫がダンボール箱に入れられ捨てられるというケースは減っているようですが、猫がいなくなっても熱心に探そうとしないなどの「不作為の遺棄」が見受けられます。また、手術しないで放し飼いをする人が依然いるのが問題です。路地裏や縁の下があった昭和30年代のような飼い方を現代の都市ですべきではありません。

――ボランティアは集まるのですか。

香取 かわいそうだと思ってエサをやる人は、ボランティア予備軍だと思っています。行政は、苦情に負けて、エサやり禁止の看板を立てたりしますが、そのような事なかれ主義の安易な対応は問題を先送りにします。隠れてエサやりをするようになって、猫嫌いの人たちと軋轢が生じるだけだからです。だから、冷静に話し合える人が音頭を取って、環境問題として解決しませんか、とボランティアへの参加を呼び掛けることが不可欠です。「猫問題」より、「人間問題」と言えるでしょう。私も、千代田区のボランティアとして、地域のコミュニケーションのお手伝いをさせていただいています。

――そうすれば、「地域猫」が実現するということなんですね。

香取 「地域にいるから」「私が世話しているから」地域猫と勝手な解釈をする人がいますが、それは違います。まず飼い主は猫を終生、適正に飼養すること。飼い主のいない猫については、去勢・不妊手術をして増えないようにしたり、里親を見つけて飼い猫にしたりすること、です。こうした活動が広まって地域の人たちの理解が進み、「猫は嫌いだけど、命ある生き物だしな。手術代入れてやるよ」と5000円をポンと寄付した人もいました。猫との共生の時代を目指し、議論してやっていくことで道が開けます。

――猫を可愛がるなら引き取って飼うべき、ということはありませんか。

香取 飼い主のいない猫の数は多く、すべてを引き取ることは現実としてできません。「マンションの1室に数十匹の猫を飼ってトラブルが発生」といったニュースがたまに流れますが、無理をすればアニマルホルダー(多頭飼育者)になって、近隣に迷惑をかけてしまいます。私の場合、飼っている17歳の高齢の猫のタマは、生後3、4か月の時に自宅近くの公園で見つけました。目やにと鼻水だらけでそのままでは死んでしまう状態だったので、里親を探そうとしたのです。ですが、情が移って手放せなくなり、自分で飼うことにしました。

――最後に、猫との付き合い方について教えて下さい。

香取 私は、阪神・淡路大震災のとき、ペットフードも持参してボランティアを兼ねて取材しましたが、人間にとってどんなにペットが大事か、を痛感しました。50歳代の男性が「こいつらの命は、自分たちと同じ、被災したのも同じや。こいつらがいるから、生きられる」と漏らすのを聞いて、人との絆の大きさに驚いたのです。古代エジプト時代から一緒に過ごしてきた猫は、かけがえのない地球上の仲間です。そんな猫と、喜怒哀楽を一緒に分かち合っていきたいものですね。

【香取章子氏プロフィール】 1954年、東京・千代田区生まれ。出版社の月刊誌編集者などを経て、フリージャーナリストになる。阪神・淡路大震災の被災ペット取材をきっかけに、犬・猫テーマの取材に専念。著書は、震災でのボランティア体験をもとにした「猫のたま吉物語」(双葉社)、人と猫との出会いと別れを描いた「猫への詫び状」(新潮社)など。東京都動物愛護推進員。「ちよだニャンとなる会」広報。