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マグロや牛、ワインに楽器 こんなものが担保になる時代

   マグロや牛、ワインに楽器、トラック…。「ABL」(アセット・ベースト・レンディング)と呼ばれる手法を使った融資が活発になりつつある。銀行の融資というと、とかく不動産担保融資に偏りがちだが、ABLは在庫の商品や動産を担保に融資する。「こんなものまでが担保に…」と思うほどだが、いま金融庁はABLの推進にうるさいほど熱心だ。それには「わけ」があるようだ。

「冷凍イカ」担保に3億円融資

ワインを担保にする銀行もある(写真はイメージ)
ワインを担保にする銀行もある(写真はイメージ)

   今度は「杉」に「冷凍イカ」だ。商工組合中央金庫は2008年1月23日、「金山杉」を担保に山形県の製材所に8000万円(融資期間1年)を単独で融資、また「冷凍イカ」を担保になんと3億円(同1年)を冷凍倉庫会社に山形銀行と協調融資するABLを実行すると発表した。借り入れた資金はそれぞれ、杉、するめいかの仕入れに使い、製品化後の販売代金を返済資金に充てる。

   マグロ(横浜銀行)や肉牛(七十七銀行)、ズワイガニ(山陰合同銀行)にワイン(北海道銀行)、トラック(スルガ銀行)、さらには伝統工芸品の大島つむぎ、醤油、楽器(いずれも商工中金)なんていうのもある。売掛金や知的財産だって、いまABLの手法を使えばあらゆる担保になるといえるだろう。

   過去、積み上がった不良債権(不動産)の処理に四苦八苦した銀行だが、その教訓から不動産担保に頼らない、また多重債務者対策から個人保証に頼らない融資手法として、金融庁はABLを積極的に薦めている。銀行が不動産担保や個人保証を過剰なまでに求めることへの苦情が多く寄せられていることもある。

   07年2月からは金融検査のチェックリストにも加えて、ABLの取り組み状況をみている。この4月からは「地域密着型金融」の観点から地域金融機関を評価するための「指標」に使う計画だという。「取り組みが不十分だと尻をたたかれる」(地銀の幹部)こともあって、銀行側は実績づくりに奔走しているというわけだ。

ABLを「再チャレンジ」向けに、という思惑

   ABLは不動産などの担保がない借り手にこそ有効な融資手法なので、「再チャレンジ」向けの融資として活用できる。しかし、銀行にしてみれば財務内容が脆弱な借り手に対する融資には慎重にならざるを得ない。

   そもそもABLは、「担保」の仕入れから商品化までを銀行がウォッチできる管理体制が構築できていないと融資できないし、昨今の「偽装」問題のように、問題が発覚して商品在庫を残したまま、あっという間に倒産するリスクや、生き物が担保の場合には病気などによる大量死といったリスクがあるので、「万全な回収ができる」とはいえない。

   「これまで工場の敷地を担保に融資してきたのに、それを工場でつくっているモノを評価しろ、商品の売れ行きを判断して貸せといわれてもむずかしい」と、前出の地銀幹部は話す。金融庁は「財務内容のチェックも怠らず」と指導するが、「ABLを使う先は本来であれば、危なっかしくて貸せない」とは本音だろう。

   先ごろ金融検査を終えたメガバンクでは、融資先の「資産査定」がなかった。メガバンクをはじめ、一時は2ケタに迫ろうかというほどあった銀行の不良債権比率が3%前後に収まってきて、融資先の資産査定は検査の重点項目からはずれた。

   金融庁は「(融資先の格付けは)各銀行で行内基準を整備しているので、その運用が的確に行われていれば(資産査定の項目は)問題はありません」(検査局)と説明。融資状況を1件1件細かく説明させるような、これまでのねちっこい金融検査は姿を消しつつある。

   金融当局もちゃんと「飴とムチ」を使い分けようとしているようだ。