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「オール電化」に押され気味 苦境のガス業界

   ガス業界がさえない。背景には主力のLNG(液化天然ガス)の輸入価格が上昇するなど原料費の増加による業績悪化があるが、地球温暖化対策の出遅れも「逆風」になっている。こうした中で東京ガスなどは08新年度に入り、安全性を高めた新たなガス器具を前倒しで投入したり、ガス料金の一部を値下げしたりと、イメージアップ作戦を展開。しかし、どうもこれらも空振りの様相で、株価もあまりパッとしない。

原料費の高騰がガス料金にはね返る

ガスは「オール電化」に押され気味だ(写真はイメージ)
ガスは「オール電化」に押され気味だ(写真はイメージ)

   ガス業界をウォッチする岡三証券のアナリスト・宮本好久氏は、都市ガスを襲う原料費の高騰はまだ続くとみている。「天然ガスの産出国が自国優先の政策に転換していることもあって、LNG価格の需給はさらにタイトになる見通しです」と話す。

   原料費の高騰は国の原料費調整制度に基づいてガス料金にはね返り、結果4月からガス料金が標準家庭で月々162円上がった。それが、まだ止まらないかもしれないのだ。

   しかし今回の値上げについて東京ガスは、経費削減効果を還元するとして、「自助努力」で約77円(標準家庭)を引き下げ、実質の値上がりを85円に抑えた。「顧客負担を少しでも軽減したい」(広報部)とがんばったのだ。

   東京ガスが固定費の削減値下げに踏み切ったのは、電力業界との料金競争がある。原料費の上昇分は電力業界も原料費調整制度によってその分を転嫁しており、標準家庭の電気料金は4月から月々156円アップしている。

   ガスも電気も生活に欠かせないだけに、料金の値上げに消費者は敏感だ。それもあって値上げ幅のわずかな差でも、ガス業界にはマイナスイメージがつく。アナリストの宮本氏は、「東京ガスにとっては電力業界との競争上、やむを得ない値下げでしょう」とみている。

   「ガスVS電力」が激化する背景には、電力業界が「地球温暖化防止」や「安心、安全」を謳い文句に推進する「オール電化」住宅が増えていることがある。

   電力業界の「エコキュート」、ガス業界の「エコウィル」はともに家庭でできる地球温暖化対策として注目されているが、日本冷凍空調工業会の調べによると、エコキュートの国内出荷台数は07年9月末で100万台を超え、12月末で107万台に到達した。

   一方、ガス業界が取り組む家庭用ガスコージェネレーションシステム「エコウィル」の出荷台数は、5万5000台。ガス業界にはもうひとつ、「エコジョーズ」と呼ばれる、従来の給湯器では排気ロスとして大気に放出されていた熱を回収して「再生」する仕組みがあって、こちらの出荷台数は54万4000台(いずれも、07年12月末実績)ある。

   とはいえ、その合計でも59万9000台と、電力業界のエコキュートに大きく水をあけられてしまって、ガス業界にとってはなんとも分が悪い。

オール電化の対抗商品も、開発費や宣伝費かさむ

   巻き返しを目論み、ガス業界は新エネルギーの利用促進を通じた地球温暖化対策として、生ゴミや下水汚泥などの再生可能な生物由来の有機性資源から発生する「バイオガス」の購入を、4月1日から始めた。

   また、安全性を大幅に高める「Siセンサー」を搭載した家庭用ガスコンロを投入、オール電化に対抗する。調理油が250度に達するとガスが自動的に止まったり、吹きこぼれなどで火が消えた場合やコンロを2時間連続で使用した場合にガスを遮断する。 じつはこのガスコンロ、国が2008年10月に法制化する新しいガスコンロの安全基準を前倒しして導入したもの。「安全」を売りものに利用を伸ばす電力業界が優位な状況を、一刻も早く打開したいとの思いがにじむ。

   新年度に入って矢継ぎ早に新たな施策を打ち出したガス業界だが、イメージはなかなか向上しないし、株価もさえない。2008年4月7日の日経平均株価が前日(4日)比で157円01銭高の1万3450円と反発したのに、東京ガスの株価は前日比13円安の432円と振るわなかった。

   前出の宮本氏は「オール電化に対抗したガス器具も、商品開発や宣伝費の負担が増してガス会社を圧迫。効果も芳しくない」と話す。しかも、Siセンサーの搭載で、新型ガスコンロの価格は、これまでのガスコンロよりも1万5000円~2万円程度上がってしまった。