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経営者の健康状態は開示すべきか アップルCEO巡って論議高まる

   米国アップルコンピュータ社CEOのスティーブ・ジョブズ氏(53)に健康不安説が出て、その情報を同社が開示すべきか論議になっている。日本では、ジョブズ氏のようなカリスマは少ないものの、専門家からは、役員報酬などの経営者情報を積極的に開示すべきとの指摘が出ている。

ジョブズ氏に「がん再発説」

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のブログ記事
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のブログ記事

   アップルコンピュータのジョブズ氏と言えば、同社の共同設立者の一人で、いったん社を追われながらも、不死鳥のようにカムバックしたことで知られる。2000年に、正式なCEOに就任し、iPodの導入で音楽事業も成功させた。

   その後、膵臓がんを患い、2004年7月に手術を受けて再びカムバックした。そんな不死身のジョブズ氏だが、再び「がん再発説」が取り沙汰されている。それは、ジョブズ氏がやつれて見えたと米国のブロガーらが騒いだからだ。08年6月10日(米国時間は9日)の世界開発者会議で、新しい携帯電話iPhone 3Gを発表したときのことだ。そして、米国の株価が上昇傾向の中で、アップルが連日株価を下げた。米金融雑誌バロンズの6月12日付サイト記事では、これは健康上のうわさを反映したものとしている。

   著名なブログのシリコン・アレー・インサイダーは6月10日付記事で、「ジョブズ氏は再びがんになったのか」との見出しを掲げて、この問題を特集した。長年アップルのカリスマ経営者だったジョブズ氏の健康状態は、株式を動かすものであり、ビジネスの関心事だと指摘。そのうえで、もしがんが再発したのなら、速やかにその情報を開示すべきだと主張した。

   さらに、米ニュースサイトのマーケット・ウォッチは、6月12日の記事で、ジョブズ氏の健康は何よりも株価に影響を与えるという識者の見方を紹介。別の識者は、アップル社の情報統制が旧ソ連のクレムリンのようだと述べたとして、ジョブズ氏が病気を再発させたのならタイムリーに投資家に開示するのが望ましいとした。

日本でも重大な健康情報開示の規定はない

   一方、ジョブズ氏の健康状態は、プライベートな問題だとする米メディアもある。

   米CNETニュースの6月11日付日本語訳記事は、「ジョブズ氏の健康状態を勘ぐるのはもう止めよう」との見出しを掲げた。その中で、「(人の健康状態に関する)素人の憶測はあてにならないし、第一に他人に健康問題を論じられる筋合いなどない」「Jobs氏とその家族のプライベートな問題」だとして、「世間の騒ぎ方は常軌を逸している」と批判している。

   これに対し、アップル社の広報担当者は、ジョブズ氏が数週間前からよくある細菌に感染していて、抗生物質の投与で回復しつつあると説明している。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙のブログ記事が、6月10日に報じた。また、米雑誌WIREDのブログ6月16日付日本語訳記事は、アップル社の株価下落について、「Apple社のイベント前の興奮状態が過ぎたあとによく見られる、イベント後の脱力感が原因になっているのかもしれない」と書いている。

   真相は不明だが、米国では、法的に健康情報を開示する義務はない。一方、東京証券取引所によると、日本でも、開示の定めはない。自主的に健康情報を開示したケースも、過去5年間ではないという。

   とはいえ、もしカリスマ経営者なら、重大な健康情報は開示すべきなのか。

   国際金融アナリストの枝川二郎さんは、こう語る。

「日本は、集団経営がほとんどで、ボスがいないと大変なことになる企業は少ないです。ごくわずかのそうした企業には、確かに『継承リスク』は言われますが、健康情報は、どこまで開示すべきか線を引きにくい。だから、現実的に開示は難しいですし、そこまでするべきかな、という感じはあります」

   ただ、役員の報酬は自主的に開示すべきだと指摘する。「日本では、役員のプライバシーだとして、開示しなくて済む仕組みになっています。しかし、会社の業績が悪いのにもかかわらず、役員報酬が高いことが多いようです。法律で定めていなくても、自主的に開示して、株主が投資の判断材料にできるようにするのがあるべき姿だと思います」