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「島耕作は日本的社長だ」 英エコノミスト誌の記事に異論

   人気漫画「社長・島耕作」を紹介した英エコノミスト誌の記事が、波紋を呼んでいる。島耕作を一匹狼とし、日本企業の馴れ合い体質と対比させる異色の記事だからだ。同誌サイトには共感のコメントが書き込まれる一方、日本のブログやコメントの一部には疑問の声も出ている。

「MBAの称号を持つ和製ジェームズ・ボンド」

島耕作紹介の記事を載せた英エコノミスト誌のサイト
島耕作紹介の記事を載せた英エコノミスト誌のサイト
「シンクグローバル!」

   課長からストーリーが始まった島耕作が2008年5月28日、初芝五洋ホールディングスの初代社長に就任したときの会見で強調した言葉だ。

   イギリスの伝統ある経済専門誌エコノミストは8月7日付記事で、その言葉を引用しながら、島が日本企業のトップとしては特異のキャラクターと紹介する。「彼は、社内でうまくやるより、日本のビジネスルールを進んで破壊してきた」というのだ。

   同誌によると、日本の中間管理職は、会議で上司に異論を唱えると早期退職に追いやられる。また、社員は会社に居残りをさせられて何週間も家族に会わない、経営者は仕事に傾倒しすぎて妻から離婚させられてしまう、ともいう。

   これに対して、「島は、リスクを犯し、断固として行動し、波風を立て、派閥の権力争いには加わらないことで評価を高めてきた」。そんな独立精神を持つ個人は、日本企業ではタブーであり、普通は長く続かないから、島のようなタイプは漫画でこそのキャラクターだとしている。

   エコノミスト誌は、島について、007の代わりにMBAの称号を持つ和製ジェームズ・ボンドに例える。さらに、東京電力の勝俣恒久社長が「彼は高潔な人です」と賞賛した言葉を紹介している。

   同誌の記事は、2パートに分かれるほど詳細なもので、それぞれにコメントがいくつか寄せられている。「彼がつまらない派閥争いに加わらず、アジアのサラリーマンに自発的思考を起こさせる役割を果たしてきたことは確かだ」(ホロングさん)など、同調する意見も多い。

「団塊世代の『モーレツ・サラリーマン』の典型」

   その一方で、同誌の紹介も、ちょっと特異だったらしい。ネット上では、疑問視する声が相次ぎ、経済学者の池田信夫さんもブログで「微妙にずれている」と違和感を明らかにした。

   池田さんは、08年8月10日付日記で、「島は一見、『日本人離れ』した一匹狼のヒーローのようだが、実は団塊世代の『モーレツ・サラリーマン』の典型だ」と指摘。その証拠として、家庭を顧みずに会社の得意先を毎日接待したり、敵対的買収から守ったりしたことを挙げる。

   さらに、島が社長就任会見で「シンクグローバル!」と叫びながらも、日本的な調和の精神を忘れなかったとする。「自社や株主の利潤を追求するだけでなく、従業員・関連企業・消費者などといったすべてのステークホルダーの利益を実現できる企業を目指します」と訴えた点だ。

   エコノミスト誌の記事サイトにも、異論が寄せられている。

「彼は、社内で功績に加え年功にも基づいて人々を昇進させるタイプだ。この記事は、エコノミスト誌の偏見を示したものだ。ビジネスのやり方についてアングロサクソン人のほとんど宗教的なまでの信念を感じる」(ダーブームさん)
「私は最初、日本を離れた25年前に書かれた記事を読んでいたのかと思った。しかし、日本でも、終身雇用や年功序列の制度が本当に変わってきたと信じている」(ジェブワークスさん)

   島耕作シリーズを連載している講談社の「モーニング」の編集担当者は、エコノミスト誌の記事をまだ読んでいないとしながら、こう話す。

「エコノミストがまとめた記事で、あれこれ言っても仕方がないとも考えています。誤読はあるかもしれませんが、いろいろ解釈のしようがあるのでは」

   担当者は、同誌から作者の弘兼憲史さんに取材があり、外国人記者が通訳を通して質問していたことを明らかにした。しかし、どんな記事になるのか事前に教えてもらえるか聞いたところ、できないという話だったという。