J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

外来猛毒ヘビに咬まれる これはもう現実に起こりうる恐怖だ

   窓や排水溝といったちょっとした隙間から、猛毒のヘビが忍び寄る。ホラー映画さながらの、こんな恐怖がいつ大都会の住人を襲ってもおかしくないのだ。毒ヘビの多くは輸入や譲渡が法律で規制されていないため、販売許可のない業者が海外から輸入し、闇取引が行われている。毒ヘビは事実上野放し状態なのだ。

逃走を防止できる構造の部屋や、頑丈な飼育容器が必要

男が咬まれたのと同じ「グリーンマンバ」。毒ヘビが野放し状態だ
男が咬まれたのと同じ「グリーンマンバ」。毒ヘビが野放し状態だ

   東京・原宿の自宅マンションで毒ヘビ51匹を無許可で飼っていた港湾作業員の男(41)が「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」違反の疑いで2008年8月27日に逮捕された。男が飼っていたのはコブラやガラガラヘビなど外来種で、33種にものぼる。男は中でも猛毒のアフリカ原産の毒ヘビ「マンバ」に餌をやろうとして指をかまれ、救急車を呼ぶ騒ぎを起こしたのが発覚のきっかけとなった。

   06年6月に改正された「動物愛護法」では、毒ヘビを無許可で飼育することを禁じている。環境庁動物愛護管理室によると、対象となるのはコブラ科236種、クサリヘビ科187 種などで、ほとんどの毒ヘビを網羅している。飼育には自治体への届出が必要なほか、逃走を防止できる構造の部屋や、頑丈な飼育容器を用意することが決められている。さらに生体にマイクロチップを埋め込むという厳しい条件があり、事実上、一般の家庭で飼うことはできない。都内で許可を得ている施設は研究所など数箇所しかない。違反すれば、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金だ。

   厳しい飼育規制の一方で、毒ヘビの多くは輸入や譲渡が法的に規制されていないという致命的な欠陥がある。文部科学省管轄下の財団法人で蛇類を中心に研究している日本蛇族学術研究所(群馬県太田市)の鳥羽通久所長によると、世界に約600種いると言われる毒ヘビのうち、輸入が禁じられているのは「ワシントン条約」で絶滅危惧種となっているアジアコブラのほか2、3種と、「外来生物法」で指定されているタイワンハブの数種類だけ。

   今回、男に販売したペットショップの経営者は、「正規の通関手続きを取ってエジプトやケニア、米国から輸入した」と供述しているという。また鳥羽所長は、お金を振り込めば送ってくれる海外の業者があり、ネットで接触すれば簡単に手に入れられると明かす。こうしたいわば「もぐりショップ」が物好きな客にこっそりと流す「闇取引」は、どの程度行われているか把握できないそうだ。

外来種の毒ヘビ「血清」は国内で作られていない

   こうしたことから大都会といえども毒ヘビに遭遇する運の悪い人もいる。毒ヘビ51匹を飼っていた男の隣の部屋で07年11月、女性がマムシにかまれて入院するという騒ぎがあった。男との関連性は警視庁が調査中だが、都会で野生のマムシに遭遇する可能性は低く、人に飼われていたことに間違いなさそうだ。

   毒ヘビに遭遇したらどうすればいいのか。前出の日本蛇族学術研究所の鳥羽所長に対処を聞いた。

「ヘビのほうから向かってくることはありません。静かにその場から立ち去ることが第一です。自分で捕まえようとせず、すぐ通報しましょう」

   万が一かまれた場合については、こうアドバイスする。

「毒は急には回りません。救急車を呼び、病院に行くだけの時間はありますので、落ち着いて行動してください。ただし、大きなヘビになるほど毒が入り込む量が多いので、緊急性が高くなります。運動神経が麻痺し、手遅れになれば呼吸困難に陥って命を落とすこともあります」

   この時、もっとも重要なのがヘビの特徴を覚えておくこと。

「遠くからでもいいので、携帯カメラなどで写真を撮るのがベスト。ヘビの種類が特定できて、抗毒血清を打つ際に役立ちます」

   血清は、かまれた種類と違うものを打っても意味がなく、種類を特定する必要がある。

   ところで、鳥羽所長によると国内で作っている血清のほとんどが日本在来のヘビ、マムシとハブだ。大きな動物園でも外来種の毒ヘビを飼育していることはまれで、血清は作れないという。日本蛇族学術研究所には海外から仕入れた血清を置いているが、「たくさんはない」。また、遠くの地域から依頼された場合、輸送に時間がかかり間に合わないという最悪のケースも考えられる。

   外来種の毒ヘビが闇取引され、こんな危険が潜んでいるのは意外と知られていない。