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枝川二郎の「マネーの虎」
公的資金を入れてでも銀行を救う理由

   世界的な金融危機で各国が銀行を救うために競うようにして公的資金(税金)を投入している。資本主義の世の中では、「一般企業が苦しくなっても助けてくれないのに、銀行だけを助けるのはおかしいではないか」と思う向きも多いだろう。

   その怒りはもっともだ。しかし「銀行を守る」というのは、われわれ「一般人を守る」ためであることを理解する必要がある。一般の企業は主に銀行や他の企業などからおカネを調達している。個人が株を買うこともあるが、株の場合はリスクの高いことを承知で投資しているはずなので、企業が破たんして債権者や株主が損をしても、いわば自業自得といえる。しかし銀行は個人から広く預金を預かっているため、破たんしたら一般市民の生活に与える影響は大きい。そこで銀行に特別な規制や保護が存在することになる。

邦銀は金融危機への備えをしてこなかった

   それならば預金者だけを守れば良いではないか、と思うかもしれない。しかし、それはコストの点で現実的でない。日本の銀行の預金の合計は540兆円にのぼる。国の税収は年間90兆円(地方税を含む)程度しかないのに、安易にすべての預金を守ろうとしたら国の財政は破たんしかねない。

   それに、「預金を守る」ことは経営者を守ることにつながる。銀行が絶対つぶれないとなれば、銀行の経営者はリスクを無視して儲かる取引をどんどん行うおそれがある。そして経営がうまくいけば高い報酬をもらい、うまくいかなくなったら税金で助けてもらおうとする。つまり、モラルハザードである。あるいはそこまで酷くなくても、預金を守ることで無能な銀行経営者を温存してしまう可能性がある。

   だから、政府の対応として最もまずいのは市場環境が良いときは銀行を自由にさせておいて、厳しくなるとあわてて公的資金を入れることだ。しかし、今まさに欧米でそういう状況が起きている。そして、わが国でもこのところ急に公的資金の導入についての議論が高まっている。結局のところ、日本政府は「失われた10年」から何も学ばなかった、のではないか。

   わが国の金融システムはバブル崩壊であれだけの痛手を負ったのに、将来の金融危機に対するきちんとした備えがなされることはなかった。サブプライム問題では、日本の銀行の国際化が遅れているため、傷が比較的浅くてすんでいるが、そうでなければいま頃大変なことになっていただろう。

提案 「時価会計制度を手直しすべきだ」

   そこで、将来に再び銀行は機能不全になるような事態を避けるために、以下のような政策を導入することを提案したい。

   まずは時価会計を手直しすることだ。時価会計とは資産価格を刻々と変化していく価格で評価しなおしていくこと。これはある面では正しいやり方だが、株式や不動産などの価格はその本質的価値とは無関係に市場のさまざまな要因で大きく変動することがあるから問題も少なくない。

   たとえば、ある日の日経平均株価が10%下がったからといって、日本の上場企業225社の価値が突然10%下がったわけではない。だから、資産価格を会計上決定するときは市場の要因による変動が過度に影響しないような基準をつくるべきだ。

   自己資本比率規制の強化も必要だ。現在の「自己資本比率8%以上」(=国際基準、国内基準は4%)という基準は平時には問題ないが、市場の大きな変動に対してあまりにも脆い。このところ自己資本比率が8%を超える欧米の銀行が次々におかしくなっていることがそれを示している。

   そこで、好景気で株式や不動産などの資産価格が上昇していく局面では、それに比例して自己資本比率のハードルが高くなるように基準を設定するべきではないか。そうすることで、景気循環を打ち消すような流れを後押しすることになると思う。

   この二つの政策を組み合わせることで銀行のバランスシートの「質」が改善し、銀行経営の安定、ひいては金融システムの安定に寄与するものと考える。それにより、将来われわれの税金を使われてしまう危険性も大きく減ると思うがいかがだろうか。


++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。