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多発するタクシー強盗傷害事件 運転手と乗客仕切る「防護板」に注文殺到

   タクシーの運転手が乗客から刃物で首などを切られ、売上金を奪われる強盗傷害事件が相次いでいる。2008年末から新年にかけ強盗殺人を含む6件の事件が起き、うち5件が大阪だった。大阪はタクシーの運転席と乗客を仕切る「防護板」の設置率が16%。東京の78%に比べかなり低く、それが影響しているらしい。そのため現在、「防護板」のメーカーに関西地区のタクシー会社から注文が殺到。納入まで1~2ヶ月待ち、という状態になっている。

乘客とのコミュニケーション「密に」と「防護板」撤去

   2008年12月30日にタクシー運転手を狙った強盗殺人事件が東大阪市で起こった。前日に兵庫県でタクシー運転手が首を数カ所刺され死亡し、売上金を奪われる事件があったばかりだった。その後、大阪では高槻市、寝屋川市、松原市と次々に運転手が襲われていく。09年1月9日にも茨木市で強盗致傷殺人事件が起き、警察は襲った2人の行方を追っている。

   大阪に集中している理由は、運転席と乗客を仕切る「防護板」を設置しているタクシーが少ないため、という見方がもっぱらだ。全国乗用自動車連合会(全乗連)によれば、08年3月末時点での設置率は全国平均が約50%。東京の78%、愛知77%に対し、大阪府は16%と低い。警察庁は09年1月7日に、タクシー業界に対する防犯指導を徹底するよう全国の警察本部に通達、タクシー会社に「防護板」の設置や防護訓練の実施などを求めた。8日には全乗連が「防護板」設置費用の補助を国や自治体に求める方針を固めた。

   157社が加盟する大阪タクシー協会によれば、大阪万博が終わった72年頃にタクシー強盗が頻発し、当時は殆どのタクシーに「防護板」が付けられていたのだそうだ。しかし、運転手側から、

「乗客とのコミュニケーション(おもてなし)に支障が出る」

という意見や、運転するには後ろが見にくいから外したい、という要望が出た。乗客からも運転席と遮断される「疎外感」がある、などの意見が出たため「防護板」を設置するタクシーが減ったのだそうだ。

注文から設置まで1~2ヶ月はかかる

   同協会はJ-CASTニュースに対し、「防護板」の有無が犯罪と結びついているかどうかはわからない、とした上で、

「一連の事件でドライバーは『安心して運転ができない』など不安を感じている。深夜の勤務を避ける人まで現れていて、防護板を付けることで不安が解消し、仕事に励めるとすれば非常に歓迎だ」

と話している。

   ただし、タクシー会社が「防護板」を付けようとしても、今すぐに、というわけにはいかない。「防護板」メーカーには年明けから注文が殺到。いくつかのタクシー装備用品製造販売会社にJ-CASTニュースが問い合わせたところ、生産が間に合わない状態で、注文しても設置まで1~2ヶ月かかるというのだ。東京の大手メーカー日立興業には、08年12月末から800枚の注文が殺到。従来ならば月に100枚程度の注文というからその多さがわかる。800枚のうち約500枚が関西地区のタクシー会社からの注文だそうだ。同社では

「殺人という痛ましい事件が起こった後に多くの注文が舞い込むのは、複雑な心境だが、防犯のために多くのタクシーに使って頂きたい。注文から1ヶ月ほど待ってもらう場合もあると思うが、全力で製造を急いでいる」

と話している。