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株安の中で09年中の東証上場はあるのか

   2009年の証券業界は、東京証券取引所の上場計画の行方が焦点だ。東証は自らの上場を今年中としているが、世界的な金融危機による株安は続いており、「東証が望む資金調達ができない可能性が強い」(大手証券)との見方が強まっているからだ。2月には、ジェイコム株の誤発注をめぐって、みずほ証券と争っている損害賠償訴訟の判決もある。東証が仮に敗訴すれば賠償金支払いによって上場計画が狂いかねない。東証は強気だが、焦りも透けて見えている。

ジェイコム株の誤発注の判決が影響?

   自らの上場時期に対する東証の表向きのスタンスは「市場環境を見極めて判断する」というものだが、実際は市場の混乱が続いている中、強気の姿勢を崩していない。斉藤惇社長は08年12月の定例会見で、「09年中に上場したいという意図は、今のところ変わっていない」と述べた。社長時代に上場計画を描いた西室泰三会長も「逆風は強いが計画変更はない」と言い切る。

   だが、証券業界の見方は違う。大手証券幹部は「この株安の時期に上場しても意味がない。東証は自ら新規上場の失敗例になるのか」と批判。業界内では「年内の東証上場はない」との見方が強まっている。

   年内上場の可否を左右しそうなのが、2月27日に予定されている、誤発注をめぐる損害賠償訴訟だ。みずほ証券は誤発注で巨額の損失が生じたのは、東証のシステム不備と主張し、約415億円の損害賠償を求めている。東証は「仮に敗訴して賠償金を支払っても軽微な負担で、上場計画は揺るがない。それよりも判決が出て、すっきりしたほうがいい」(役員)と落ち着きを見せる。しかし、仮に敗訴すれば東証は賠償金の支払いだけではなく、「東証のシステムはぜい弱だ、ということを他市場や投資家に知らしめることになる」(大手証券幹部)とのリスクもあり、敗訴のダメージは金額の多寡ではなさそうだ。

システム更新に必要な投資資金がほしい東証

   東証が今年中の上場に強い意欲を見せているのは、システム更新に必要な投資資金を調達するためだ。世界の市場との競争に打ち勝つためには「売買注文の処理スピードを速め、確実に決済するシステムが必要だ」(東証幹部)。東証がシステム更新の投資資金に早めにめどを付けておきたいとの思惑を抱くのはある意味当然だ。

   ただ、業界にはうがった見方もある。ある証券会社の役員がこう解説する。「東証上場は斉藤惇社長の目に見える実績になる。これまでの斉藤社長には目立った実績がないだけに上場を焦っているのではないか」

   東証が上場による資金調達で失敗すれば、取引所としての威信は傷付き、斉藤社長の求心力も低下するのは間違いない。東証内では「上場を成功させるためにも、株価が早く回復してほしい」との切実な声が聞こえるが、東京市場では株価上昇の兆しが見えないだけに、東証の苦悩は深まっている。