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インパクトの強い「バーチャル広告」WBC中継の日本企業広告に登場

   「侍ジャパン」が決勝戦進出を決めたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のテレビ中継映像には日本企業の広告が目立つ。ところが、これらの広告は、実際の球場には存在せず、画面上ではめ込まれた「バーチャル広告」なのだ。インパクトの強さが「広告の可能性を広げる」のは確かだが、「実際には存在しないもの」をはめ込むことが問題になった例もある。

マクドナルドやアサヒビールの広告が目を引く

   WBCのテレビ中継の視聴率は好調で、例えば3月20日にTBS系で放送された日韓戦の平均世帯視聴率は、関東地区で40.1%(ビデオリサーチ調べ)。瞬間最高では、48.1%という数字をたたき出している。

   野球の中継で視聴者の印象に残るのは、やはりバッターボックスでのやりとりだ。そうなると、バックネット下の広告にも、かなり注目が集まることになる。特にWBCでは、「世界をつかもう」という日本語のキャッチフレーズが入ったマクドナルドの広告や、「SUPER DRY」と大きく書かれたアサヒビールなど、日本企業の広告が目を引く。

   実は、これらの広告は、球場で実際に掲示されているものではなく、CG合成ではめ込まれた、「バーチャル(仮想)広告」と呼ばれるものだ。球場に実際に設置されているのは、緑色の何も書いていないパネルだ。

   この広告合成技術を提供しているのは、プリンストン・ビデオ・イメージ(PVI)社。大リーグでは、すでに同社の技術を6年以上にわたって利用しているといい、同社はWBCについても

「PVIの技術で、ターゲット別の広告を、異なった地域の視聴者に見せることができる。これによって、(WBCの主催者の一角を占める)MLB(大リーグ機構)にとって収入を生み出す機会を提供している」

と、主催者側のメリットを強調している。

   この手法は米国に90年代後半に登場し、「スーパーボール」などのイベントで、フェンス上に自動車メーカーの広告が現れることなどが有名だ。04年に行われた大リーグのオールスターゲームでは、日本向けの「バーチャル広告」が登場。日本の視聴者限定ながら、バックネットの広告を日本企業6社が「独占」した。

バーチャルCMの認知率は88%と高い

   05年には、サッカーとスノーボードの中継で、バーチャル広告が日本にも「上陸」。このときの調査では、広告媒体としてのインパクトの強さが、高く評価された。博報堂DYメディアパートナーズが、放送直後から放送1日後までに番組を見た視聴者295人を対象に行ったアンケートでバーチャル広告の印象を聞いたところ、回答者の8割以上が「普通のCMより目立つと思う」「普通のCMより興味をひかれた」などと回答。さらに、企業名などを示した上でCMの認知度を調べたところ、通常のCMの認知率が61.9%だったのに対し、バーチャルCMの認知率は88.0%。バーチャル広告の方が、視聴者に対して与えるインパクトがかなり大きいということが分かっている。

   一方、バーチャル広告をめぐって、問題が発生したこともある。1999年の大晦日、米CBSテレビはタイムズスクエアからカウントダウンの中継をしたのだが、同社のカメラ位置からは、ビルの壁面に設置してあるNBCテレビの巨大スクリーンが映りこんでしまうことが判明。そこで、CBSは、スクリーンの上に自社ロゴを合成して放送した。このことを番組で知らせていなかったことが問題化したのだ。CBS側は「問題はなかった」と主張したが、番組の司会者だったダン・ラザー氏は、この件について「誤り」と発言。局内で意見が分かれるという事態に発展した。

   これを受けて、前出のPVI社では、ニュース番組にこの技術を提供するのをやめ、スポーツ中継などに特化して提供することを決めた。

   日本でも一般化しつつある画面合成技術だが、番組の中身によっては「賛否両論」ある可能性もありそうだ。