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広島電鉄、若手と非正規「賃上げ」ベテラン社員「賃下げ」

   「非正規社員を正社員化せよ」との声が高まるなか、広島の電鉄会社が、全契約社員を正規雇用することで労組と仮合意した。全社員の賃金体系が一本化され、契約社員の待遇は改善される一方、一部のベテラン社員には「賃下げ」を迫ることになる。通常であれば、労組は賃下げには猛反発するものだが、今回は、この条件を「飲む」ことができる背景があったようなのだ。

正社員化で昇給が可能になり、退職金も

広島市内には、多くの路面電車が走っている
広島市内には、多くの路面電車が走っている

   広島市などで路面電車を運行していることで有名な広島電鉄(広島市)の労働組合「私鉄中国地方労働組合」は2009年3月25日、全契約社員を正社員化することで会社側と仮合意した、と発表した。

   組合側によると、00年、バスや電車の運転士などの現業職に、1年ごとに雇用契約を更新する契約社員制度が導入され、翌01年からは、現業職については契約社員しか採用していない。全部で約1300人いる従業員のうち、約150人が契約社員だ。月額賃金は運転士が23万1000円、車掌が19万6500円で、何年勤務しても昇給はない。入社から3年たった契約社員は、試験に合格すれば「正社員II」と呼ばれる身分に昇格するが、契約期間の区切りがなくなるという点以外は、労働条件は同じだ。現在、「正社員II」は150人在籍。「正社員II」と契約社員とあわせて計300人は、全員普通の正社員になる。具体的には、年齢や能力に応じて昇給するようになるほか、退職金制度も導入される。

   一方、約890人いる管理職以外の正社員のうち、ベテラン社員260~270人は「賃下げ」となる。従来は60歳だった定年を65歳まで延長した上で収入が得られる期間を長くし、年1割ずつ、10年かけて減額する。

   通常、労組側は賃下げには猛反発するもので、会社側と歩み寄ることは多くない。09年に入って急浮上した「ワークシェアリング」についても、労組側から「実質的な賃下げになる恐れがある」との懸念があり、議論が進まないのが象徴的な例だ。

比較的若い世代の正社員も「賃上げ」

   もっとも、同社では契約社員も労組に加盟しており、労組側の説明によると、

「同じ職場で雇用制度が違うと、職場が分断される」

   として、06年度から雇用形態の一本化を求めて会社側と交渉を進めてきたのだという。その結果、

「労組側の要求とは、かけ離れた部分があったものの、会社の体力からすると精一杯(会社側が努力した)ということで、仮合意に至った」

のだという。さらに、今回の制度一本化で、正社員にも賃上げが期待できる部分があると説明する。

「実は、契約社員制度が導入される直前(98~99年頃)に入社した正社員は、契約社員よりも待遇が悪いんです。現在の運転士の月額賃金は23万1000円なのに対して、この世代の正社員は20万7000円。入社時は17~18万円でした。試算したところ、今のペースで昇給したとしても、定年時に25万円に到達しないことがわかったのです」

   好景気時の春闘では1万円台の賃上げが行われた時期があり、この恩恵を受けたのが前出の「ベテラン組」。この反動で、90年代後半に入社した世代の賃金が抑えられたということのようだ。契約社員だけでなく、比較的若い世代の正社員に対しても「賃上げ」となることから、労組としてもベテランの賃下げを受けいれた格好だ。

   契約社員が労組に加盟していない私鉄も多いが、今回のケースは全国的に注目されそうだ。