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13兆円有価証券ミステリー 「犯人」は日本人なのか?

   日本のパスポートを持つ男性2人が、イタリアからスイスに大量の米有価証券を不正に持ち出そうとしたとして、イタリア財務警察に拘束された。2人が持っていた有価証券の額は、計1340億ドル(約13兆円)相当という途方もないものなのだが、その多くが偽造されたものである可能性も高くなってきた。また、いまだに「日本人」だとも確認できず、「犯行」の目的も定かでない。

偽物の場合、処罰されない?

   男性2人が拘束されたのは、2009年6月3日。イタリア財務警察の警察官が、イタリアとスイスの国境付近に停車していた列車で手荷物検査をしたところ、2人のスーツケースの底の部分から、米国債など有価証券249枚が出てきたという。1枚の額面が5億ドル(483億円)のものもあったという。

   仮にこれらの有価証券が本物であるとすれば、この1340億ドルという額は、カザフスタンのGDPとほぼ同じで、英国が持っている米債権の額(1282億ドル)よりも多い。この2人は、ロシア(1384億ドル)に次いで米国の4番目の債権者ということにもなる。また、2人は持ち出しを申告していなかったため、額面の40%に当たる罰金を科される可能性もある。

   もっとも、これらの話は、「有価証券が本物であること」が前提だ。ところが、その前提が崩れてしまったようなのだ。米通信社のブルームバーグが6月12日に報じたところによると、同日、イタリア財務警察が米証券取引委員会に対して、有価証券が本物かどうかの確認作業を依頼。記事では、

「有価証券はおそらく偽物。一両日中に調査結果が出ると思う」

との財務警察関係者のコメントを紹介している

   さらに、その4日後の6月16日には、共同通信が「ローマの外交筋」の話として、債券の大半が偽造されたものであったことを報じている。毎日新聞も、偽造の可能性が高いとの見方で、6月16日に

「偽物の場合、使用や提示がなければ処罰されないため、2人は事情聴取後に釈放された」

と報じている。

「どういう容疑で拘束されたのかも分かっていません」

   ただ、事件の背景については明らかになっていない部分が多く、在ミラノ総領事館も困惑気味だ。領事館では、

「報道されているような事案があることは承知していますが、拘束されたのが日本人かどうかも確認できていない状態です。イタリアの捜査当局に照会(問い合わせ)をしているのですが、『捜査中なので教えられない』ということで、回答がないんです。どういう容疑で拘束されたのかすら、分かっていません」

   さらに、領事館は、捜査の経緯にも疑問を持っているようだ。

「2人が拘束されたと報じられている『キアッソ』という場所はスイス領なので、本来ならばスイス当局からジュネーブの総領事館に通報があるはずなのですが、特に通報はありませんでした。国境地帯だということで、イタリア側の警察が捜査したということなのかも知れませんが、そうかと言ってイタリア側から当方に通報がある訳でもない。非常にイタリア当局が慎重になっている、という印象を受けています」

   もっと、不可解なのが、今回の「犯行動機」だ。仮に有価証券が偽造となると、その目的は何なのだろうか。国際金融アナリストの枝川二郎さんは、「詐欺目的」だと推測している。

「誰かに売りつけようと狙っていたのではないでしょうか。昔から、この類の『インチキ債券』は結構あって、不思議なことに、騙される人が多いんですね。免疫がないものだから、『あなたのためだけの銘柄です』と言われると、クラッときちゃう人もいます」