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アイドル表紙の文庫続々 若者の「本離れ」食い止められるのか

   物憂げに振り向くマドンナは、AKB48の大島優子さん――。漱石の名作「坊ちゃん」など、アイドルや漫画の表紙で飾る名作文庫が、続々と出版されている。

AKB48の大島優子さんらを起用

ぶんか社の「夏の三冊」特設ページ
ぶんか社の「夏の三冊」特設ページ

   何気ない日常風景の中に、文庫本を手に取った女の子がいる。都内の図書館で…公園で…。よく見ると、女性アイドルグループ「AKB48」のメンバーたちだ。

   太宰治の名作「人間失格」の表紙では、前田敦子さんが物思いにふけった目で遠くを見つめている。堀辰雄「風立ちぬ」は、純愛に憧れるセーラー服の小野恵令奈さんだ。大島優子さんは、「坊っちゃん」の表紙で憂い目のマドンナを演じている。

   ぶんか社文庫では、2009年6月15日から「夏の三冊」と銘打って、上記の名作シリーズを出した。アイドルの表紙を使うのは、今回が初の試みだ。

   街の書店では、このところ、アイドルや漫画を表紙にした名作文庫が平積みにされている。背景には、「ジャケ買い」で出版不況を何とか打開したい狙いがあるようだ。

   出版科学研究所の調べによると、書籍の販売額は、1996年をピークに低落傾向が続いている。最近は、文庫やケータイ小説といった低価格商品が売れており、この傾向に拍車をかけている。出版社としては、文庫などをもっと売ることが至上命題となっており、特に、古い名作の需要を開拓したいらしい。

   ぶんか社の第四編集部の小川将司さんは、「若い子の本離れと言われますが、ライトノベルは買われています。古い名作でも、新しいテイストで届ければ、読んでもらえると考えました」と説明する。AKB48を起用したのは、「読者になってほしい10代の若い子に、一番身近に感じられる人を選んだため」という。

文字を大きくし、行間を広めにして、読みやすくした

   ぶんか社文庫では、文字を大きくし、行間を広めにして、読みやすくもした。初版はどれも、小川将司さんが「大きく勝負した」という1万5000部。売れ行きは順調といい、生誕100年の太宰ブームもあって、「人間失格」は、わずか2週間で重版がかかった。

   1冊500円弱と文庫では若干高め。「アイドルの写真を使ったり、紙を変えたりしたためですが、ワンコインでと設定しました」

   これに対し、漫画の表紙で勝負しているのが集英社文庫。2007年に、文庫創刊30周年を記念して、太宰の「人間失格」を出したのが始まりだ。表紙は、「DEATH NOTE」で知られる小畑健さんが描いた。現在のイラストでは、イスに座った制服姿の若者がこちらを眼光鋭く見つめている。

   「若い読者に、古典の名作に親しみを持って、気軽に手に取ってもらおうというアイデアです。小畑さんのイラストを使ったのは、編集者が、その世界観が人間失格の世界観に合うと考えたのがきっかけでした」(集英社広報室)

   09年は、「テニスの王子様」で知られる許斐(このみ)剛さんイラストの「走れメロス」など、漫画3点を表紙にした文庫を6月26日に出版した。漫画のほか、アイドルも表紙に使っており、09年は、テレビドラマなどで活躍中の岡田将生さんを起用した。

   現在は、こうしたスペシャルカバーの文庫が6点あり、売れ行きは順調という。特に、「人間失格」は、太宰ブームでここ2年のうちに重版を重ね、35万部も出た。

   ただ、活字離れと言われる若者たちが、古風な名作を買った後に本当に読んでいるのか。

   ぶんか社の小川さんは、「大上段に構えずに、とりあえず買ってみることが、入り口になると思っています」と言う。集英社では、「作家の写真が載っていたり、アイドルなどの鑑賞も書かれたりしていますので、初めて読む人も関心を持って入り込めるはずです」としている。