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サントリーが文化事業縮小 キリンと経営統合の影響?

   キリンホールディングスとの経営統合を目指すサントリーホールディングスが、創業地である大阪市港区の「サントリーミュージアム天保山」を2010年12月末で休館すると発表し、波紋を広げている。サントリーは2代目社長で創業家出身の佐治敬三氏がサントリー美術館(東京都港区)、サントリーホール(同)など本業と離れた文化活動を展開。日本の「メセナ」(企業の芸術文化活動の支援)の先駆者として知られたが、キリンとの経営統合で「効率重視の経営にシフトし、サントリー伝統の企業文化が破壊されてしまうのではないか」との見方が経済界などから出ている。

サントリー美術館、サントリーホールなども収支は赤字

   サントリーミュージアムは建築家の安藤忠雄氏が設計し、1994年にオープンした複合文化施設で、ギャラリーなど美術館の機能や巨大スクリーンによる映像施設などを備える。サントリーの美術館やホールが東京に集中したため、「サントリー発祥の大阪に文化施設がないのは寂しい」との地元の声に応え、同ミュージアムが誕生した経緯がある。しかし、集客は目標に達せず、年間数億円の赤字が続いていた。同社の品治利典執行役員は休館について「想定を上回るコスト負担となった。東京と大阪に二つの美術館を持つのは厳しい経営環境となった」などと説明した。

   今後、サントリーの美術館事業は東京のサントリー美術館に集約のうえ、「サントリー音楽財団」(東京都港区)と統合し、「公益財団法人サントリー芸術財団」として2009年9月1日に再編される。経営合理化の波は、サントリーの文化事業にも着々と及んでいるのは間違いない。東京のサントリー美術館、サントリーホールなども収支は赤字といい、将来的な存続を危ぶむ声も出そうだ。

短期的な効率よりも長期的な戦略を重視する経営が変化?

   これまでサントリーは非上場を貫き、短期的な収益よりも、長期的な戦略で成果を出す「勝ち組企業」として知られてきた。同社をよく知る金融関係者は「ウイスキーは出荷まで、樽の中で30年間熟成するような商品で、ビールのように出来立てをすぐ出荷する商品とは違う。じっくり時間をかけたウイスキーづくりなど、ある意味で道楽に近いが、それを許容し、短期的な効率よりも長期的な戦略を重視する経営手法がサントリーの文化だった」と解説する。

   サントリーがキリンと経営統合し、「普通の会社」を目指す以上、これまでの「非上場・同族経営」というわけにはいかない。本業の飲料や食品事業に経営資源を集中し、キリンとともに世界市場で生き残っていくためには、赤字垂れ流しの文化事業など許されないのは当たり前なのかもしれない。しかし、出光興産などと並び、長く非上場を貫き、文化事業に力を入れた老舗企業の変化を惜しむ声は、美術ファンならずとも強いのは事実。今後のキリンとの経営統合交渉で、サントリーの文化事業がさらに見直される可能性は否定できそうにない。