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「論語」が静かな「ブーム」 児童向け書籍珍しいヒット

   孔子が説く「論語」が見直されている。子どもを対象にした素読会が盛況を見せ、児童向けに編んだ書籍がジャンルの中では珍しいヒット作となっている。両親が思いやりのある子どもに育てようと買い与える、という例が多いようだが、自分が読み入ってしまう人も少なくない。

講師は安岡正篤氏の孫、安岡定子さん

   「論語」は、「孟子」「大学」「中庸」とあわせ、儒教の経書「四書」のひとつだ。孔子とその弟子たちの間で交わされた言葉がまとめられている。「子」が語った生き方や考え方は、「子曰く……」という形で、語り継がれている。『学びて時に之を習う』という一節を耳にした人も多いことだろう。

   東京都文京区にある伝通院では2005年から、月1回、「こども論語塾」が開催されている。会を主催する「文の京こども論語塾」の担当者は、「もともとは、優しい子どもに育ってほしい。健やかに育ってほしいとの思いからはじまりました」。論語塾では、論語を素読し、孔子の考え方に触れる。

   講師は、陽明学者・安岡正篤氏の孫、安岡定子さんだ。参加者約30人でスタートしたが、今では100人が集まって、部屋は満員の状況だ。親子連れが多いが、お年寄りもふらりと参加する。最近では教育関係者の見学も多いという。前出の担当者は、こう話す。

「親子やお年寄りが集まって、学校教育にない雰囲気が好評です。会では基本的なフレーズを素読します。たとえば、必ず素読している『巧言令色鮮し仁』。これは、うわべだけを取り繕っている者は思いやりに欠けるという意味。子どもたちには、こういった言葉をふと思い出して、人間関係に役立てて欲しいと思います」

   SNS「mixi」にも複数の「孔子」「論語」コミュニティがあって、書き込みには「行き詰った時やどうしようもない時に論語を読んで生きる知恵を頂いております」「読むと落ち着くんです」「論語は、人間の徳性を磨く書物ですよね」などとあって、「人生指南」の書としている人も多いようだ。

「不透明な時代の雰囲気によく合っているのかも」

   前出の安岡定子さんが書いた「親子で楽しむ こども論語塾」(明治書院)は初版5000部で2008年にスタートしたが、好評で重版を重ねた。09年2月に発売された続編とあわせると10万部を発行した。これほど売れるのは、児童書のジャンルの中では珍しく、続編も現在編集中だ。

   同書は、約500章ある「論語」の中から厳選した内容を収録している。書き下し文、原文、現代日本語にくわえて、「こども用解説」が掲載されている。対象は5歳以上。

   編集担当の西岡亜希子さんは「昔はおじいちゃん、おばあちゃんが生き方を示してくれたものでした。今では、少なくなってしまって。そんなこともあって、思いやりの心を育てたいと、両親が子どもに買い与えるみたいです」と話す。もっとも、子どもと一緒に読みながら、親の方が気に入ってしまう場合も多々ある。

「著者の安岡さんは、論語を『心の栄養』と言っています。読んですぐに役に立つというわけではなくて、いつか役立つものです。論語は、内容が普遍的なので、子どもにとって、父親にとって、母親にとって、それぞれに違った読みができるのが面白いと思います」

   一方、前出の「こども論語塾」の担当者は、「これまでないがしろにされがちだった『心』が今、見直されているように思います。この不透明な時代の雰囲気にも、よく合っているのかもしれませんね」と話している。