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神奈川県の10年度から「残業ゼロ」 労働組合「サービス残業」を懸念

   神奈川県が「残業ゼロ革命」と銘打った改革を行う、とぶちあげた。残業をなくすことで、仕事と生活を調和させ、業務の「質」を向上させていくという触れ込みだがが、県の職員労働組合は「残業代がゼロになる可能性がある」と懸念している。実施までには紆余曲折が予想される。

   神奈川県の松沢成文知事は2009年10月13日の定例記者会見で、「本格的な中央分権改革に対応するためには、先進的な政策を生み出し、効果的に遂行する必要がある」とした上で、現状では職員の意欲があったとしても、職場で長時間労働が続き、新たな政策に着手する余裕がないと指摘した。

「やってはいけない仕事のやり方事例集」を作成

   そのうえで、「県庁改革 残業ゼロ革命」をスタートさせるとした。仕事と生活を調和させて「ワークライフバランス」を実現させ、職員が自発的に先進的な政策を提案していく活力ある県庁にしていく、というのである。災害などの緊急時を除き、「10年度中には県庁はほぼ残業がなくなったと言われるようにしたい」と強調した。

   これに伴い、松沢知事の指示で職員と有識者からなる「しごと改革を進める県庁プロジェクトチーム」が発足。「残業ゼロ革命」の本格的な実施は10年4月からになるが、09年度からも実施可能な取り組みは順次行っていく。

   まず、09年度から始めるのが「県民サービス向上に直結しない内向きの仕事の廃止・簡略化」。庁内でのやり取りは、紙ではなく庁内イントラネット活用するほか、「やってはいけない仕事のやり方事例集」を作成し、庁内で周知させる。

   また、「職員の意識改革・コスト意識を磨く」ため、資料作成に当たっては「70点主義」を徹底する。既存資料を活用してコストダウンとスピードを重視し、資料の余白には作成指示者と作成に要した時間を入れるようにするという。 

   10年度からは、人事評価で時間外勤務削減の取り組みを積極的に評価し、管理職の待遇に反映させる。また、個人の状況に合わせたフレックスタイム制も導入していく。

「カエルバッジ」で退庁時間管理

   県によると、現在の県職員で知事部局に所属しているのが約8200人。08年度の総残業代は約36億円だった。現在、1人あたりの月平均残業時間は15時間だが、100時間以上残業する部署もあるという。県の総務部の担当者は

「これまでにも、総労働時間短縮のガイドラインを作るなど、様々な取り組みは行っていましたが、あくまで努力目標的な扱いで中々劇的な効果が上がりませんでした。今回はかなり抜本的な改革となります」

   と語る。09年度中に始める対策の1つが、「『カエルバッジ』による退庁時間明示」だ。残業する職員は事前に所属長に申請して、カエルのイラストの入った「カエルバッジ」の交付を受け、身につけなければならない。「青ガエル」は19時退庁、「黄ガエル」は20時退庁といったように、色によって退庁時間が区分けされ、バッジがない職員は定時に退庁する。所属ごとにバッジの個数は限定されており、業務の優先順位に応じて交付される。

   「人件費削減、コストカットが主眼ではない」とのことで、総残業代をどの程度減らすかという具体的な数字は定めていないが、緊急時を除き10年度内に残業をゼロにするという。

   バッジが交付されずに、隠れて残業したり、セキュリティ上禁止されている持ち帰り残業をする職員が出てくる可能性については、

「我々はみな規則を守りますから、そのような職員はいないと思います」

   とのことだった。

「持ち帰り残業の増加にも繋がる」

   一方、県庁職員の約4割が加盟している神奈川県職員労働組合総連合の担当者は、

「残業そのものをゼロにするということには賛同できますが、残業ゼロを建前に残業代がゼロということにもなる可能性が多分にあります」

   と指摘する。これまでにも残業代が100%でないことがあり、組合としては「疑心暗鬼になるところがある」。カエルバッジ制度も、

「所属長が個人の業務量を事前に把握するというのが主旨ですが、50~60人規模の部署になると把握は非常に困難です。残業が必要なのに交付されなかった場合を当局は想定していません。持ち帰り残業の増加にも繋がります」

   と話している。フレックスタイム制の導入にしても組合との協議なしに突然発表されてしまったとし、

「プロジェクトチームが作った中間報告書がこのままでいいのかという議論もされていません。これから県と協議していきます」

   と語った。