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メガバンク次々増資に動く? 株式市場に悪影響

   三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が1兆円の大型普通株増資に踏み切る。金融機関の自己資本比率規制強化の動きに対応するためだが、メガバンクでは最も資本に厚みがある三菱UFJFGが増資を決めたことで、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの増資も「秒読み」との見方が強い。大型増資が相次げば、株式の需給に悪影響を与える懸念もあり、市場関係者は動向を注視している。

   「新しい発展の土台を形作り、経済の血流の機能を果たす」。三菱UFJFGの畔柳信雄社長は2009年11月18日の会見で、増資の理由を述べた。三菱UFJFGは08年12月にも4000億円の普通株増資を実施したが、当時は金融危機で資本が目減りしたため。今回は成長への飛躍という説明だ。

自己資本新規制がきっかけ

   しかし、実態は異なる。09年9月の主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)では、金融機関の資本不足が金融危機を拡大させたとの見方から、12年末までに自己資本規制を強化、実行に移すことを決めた。新規制では、経営が悪化した時に減配などで損失を吸収できる、普通株主体の「狭義の中核的自己資本比率」が重視される見通しだが、邦銀は過去、高配当だが議決権が無い優先株などで資本を増やしてきた。このため、今になって普通株の比率を高める必要に迫られているのだ。

   新規制の具体化はこれからだが、「狭義」は総資産の4~6%必要になるとの見方が強い。これに対しメガバンクは9月末時点で、三菱UFJFG6%、三井住友FG4.7%とぎりぎり。みずほFGは公表していないが、アナリストらは3~4%程度と推定しており、増資するかリスク資産を減らさなければ対応は難しいと見られている。

   しかし、みずほ、三井住友とも、この夏に増資を実施したばかりで、さらなる増資は1株当たりの価値が希薄化させ、投資家離れを招きかねない。あるメガバンク幹部は機関投資家から「既存の株主に損害を与えかねない対応はしないでしょうね」とクギを刺された。

「希薄化で既存株主が犠牲になる」

   とりわけ金融危機で打撃を受けたみずほは、大規模増資が避けられないとの見方から、三菱UFJFGが増資を発表した18日以降、株価の下落が目立つ。株価低迷が続くと、増資をしたくてもできない状況となり、リスク資産を圧縮することで自己資本を高める「縮小均衡」に追い込まれる。そうした切迫感から、11月13日の決算会見で「狭義」の数値を聞かれたみずほFG幹部が「そんな定義は(まだ)無い」と気色ばむ一幕もあった。

   今後予想される大規模増資が問題なのは、規制強化への対応に軸足が置かれ、明確な成長戦略を前提とするものではないからだ。三井住友FGが6月に約8600億円の増資を実施した時には、日興コーディアル証券買収で銀行・証券一体となった金融サービスを展開するというシナリオを描けたが、現状でにわかにメガバンクの収益を高める戦略は、各行とも提示できていない。

   東京証券取引所の斉藤惇社長は11月24日の会見で、事業会社を含めた最近の大規模増資の動きに対し「希薄化で既存株主が犠牲になる」と警戒心を示した。メガバンクの増資攻勢は、円高などで下押し圧力が高まっている株式市場への重しとなりかねない。