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政治漂流 2010参院選 
ネットで民意拾う直接民主制 これで「政治家」いらなくなる
早稲田大学教授の東浩紀さんに聞く

   選挙のインターネット解禁は実現を目前にして政治日程で先送りになった。ネットの政治への有効利用について、ネットによる直接民主制や「新しい政治家」像を提言する、批評家で小説家でもある東浩紀・早稲田大学教授(現代思想)に聞いた。

現行の政治システムうまく機能しているか

新潮文芸振興会の三島由紀夫賞を受賞したばかり。「次回作は、人を楽しませるエンタメ小説を書いていきたい」と話す東浩紀さん
新潮文芸振興会の三島由紀夫賞を受賞したばかり。「次回作は、人を楽しませるエンタメ小説を書いていきたい」と話す東浩紀さん

――東さんは、2009年の政権交代後間もない頃、テレビ討論番組に出演し、「インターネットによる直接民主制」を主張しました。具体的にはどのようなイメージですか。

 人口が5万人ていどの市町村なら、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などを使えば直接民主制が可能だと発言しました。放送当時、(ミニブログ)ツイッター(Twitter)では、勝間和代さんや堀江貴文さんら著名人の場合、1人に対して10万人以上ものフォロワー(定期的に閲覧するため登録した人)が付く場合があり、見た人から寄せられた「つぶやき」に答えを返している、そんな現状が底流にありました。1人で10万人超とコミュニケーションすることも可能で、現在では例に挙げた2人のフォロワーは数倍以上に増えています。
   もっとも、テレビ番組での発言でしたので、議論を単純化した部分もあります。番組では触れませんでしたが、前提として、市町村民同士のコミュニティー意識が残っていて、市町村全体の問題を見渡せる程度の規模であることが必要です。例えば東京都下の小都市では、難しいでしょう。個々の関心がバラバラで自治体全体の問題を把握できないからです。

――「ネットによる直接民主制」は、かつて研究していた「情報社会の倫理と設計についての学際的研究」などから導かれた結論ですか、それとも直感的な思いつきですか。

 ベースとなる問題意識として、地方・国政を問わず、現行の選挙システムや政治家の活動様式は、うまく機能していないのではないか、と考えています。小泉「郵政選挙」と鳩山「政権交代選挙」の双方の圧勝の仕方は異様ではなかったでしょうか。これだけ問題が多方面に山積する中、複雑な民意を反映し切れていない結果だと思います。小選挙区制がもつ性格も大きく影響していますが。
   国民ひとりひとりが政治家に意思を託し、政治家同士が話し合って納得・合意を得る――そんな「理想」が成立している、というのが現行制度の建前なのでしょうが、そんなものが幻想だということは皆が気付いている。国政の場合、国全体の問題を1人が考えるなんて不可能です。東京の小選挙区でみても、40万人程度の有権者がいて、演説会などを開いたところで、足を運ぶのは支持者や義理で行く人以外はごく一部です。どれだけの「声」を拾えるでしょうか。そんな政治家たちが、民意の反映に十分役立っているとはとても思えません。

ツイッターの「つぶやき」は無意識の意思表明

――ネットの方が民意を知るのに有効だ、ということですか。

 政治でネットを有効に使えるのは、「議論を戦わせて合意形成に至る」という点よりも、無意識に行っている政治的意思表明を拾い上げる機能にあると思っています。
   「無意識に行っている政治的意思表明」とは、ツイッターの「つぶやき」に顕著ですが、ブログで長い文書を書こうと身構えるのではなく、140字(ツイッターの文字数制限)という短さゆえに、書く方は素直な感想を表明できるし、読む方も率直な声を知ることができるのです。私自身、沖縄の基地移設問題でブログを書くのは荷が重すぎますが、ツイッターなら気軽に発言できました。同様の人は少なくないと思います。

――「ネットによる直接民主制」と聞くと、何でもネット投票で決めましょう、というイメージが浮かびますが、違うのですか。

 ええ、違います。むしろ、国政などで専門知識が求められる議論や決定は、分野ごとに専門家が議論を尽くした方が良いと思っています。その専門家こそが、私の「新しい政治家」のイメージです。そして彼らがみんなの政治的意思表明を知る手段としてネットは大変有効なのです。
   先に触れた「SNSによる直接民主制」だけではなく、こうしたネットを介した「政治家」と有権者の意思疎通のイメージも広い意味で「ネットによる直接民主制」として捉えています。
   また、新しい「政治家」は、現行の政治家のように「フルタイムのプロ」ではありません。ほかに仕事や専門分野を持った人がボランティアとして、専門分野での議論に参加するのです。そうなると、政治家のすがたはずいぶんと変わります。

――ご指摘のような流れは実現化するでしょうか。

 人々の想像力が現実のシステムの力に追いついてくれば可能ですが、まだ「ツイッターをやったことがない」という人も相当数いる現状では、実現はまだ先でしょう。
   ネット選挙解禁が政局のごたごたで流れてしまいましたが、「ブログの更新が可能に……」などというレベルは早く乗り越えて、地理・規模の制約を簡単に超えることができる、このネットというシステムを意思集約に有効に使う方法について、真剣に考える時期に来ていると思います。

東浩紀さん(@hazuma) プロフィール
あずま ひろき 1971年、東京生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。1999年度、「存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて」でサントリー学芸賞受賞。2001年、「オタク」などを論じた「動物化するポストモダン」を出版。「ゼロ年代(2000年代)の批評家」として知られる。現在、早稲田大学文学学術院教授、東京工業大学世界文明センター特任教授。2010年、単著としては初の長編小説「クォンタム・ファミリーズ」で三島由紀夫賞を受けた。