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「ワクチン後進国」から脱却 製薬大手「インフル」参入相次ぐ背景

   インフルエンザのシーズンを前に、2010年のワクチン接種が10月から始まった。2009年は新型インフルエンザが猛威を振るい、ワクチン不足で一次はパニックの様相も見せるなど、国内のワクチン生産体制の脆弱さが明らかになったが、国内の大手医薬品メーカーがワクチン事業に相次いで参入し、「ワクチン後進国」からの脱却のめどもついたようだ。

   日本は1980年代までは「ワクチン先進国」。年間1万人以上もいた百日咳の死者がほぼゼロになるなどの成果を上げてきた。

小規模の4社だけがインフルワクチン製造続ける

   しかし、1989年に始まったに麻疹・風疹・おたふく風邪を予防する「新3種混合ワクチン」の副作用が社会問題化。インフルワクチンの接種率も低迷し、1994年に武田薬品工業がインフルワクチン製造を中止してからは、小規模の4社だけが製造を続けてきた。

   そうした中で、近年、予防接種のインフルエンザなどによる死亡減少という本来の有効性が見直されていた。そこに09年、新型インフルが流行し、ワクチンを国内で自給できずに緊急輸入に追い込まれた上、流行のピークに間に合わず、逆にシーズン後に大量に余るという事態を招いた。

   このため、武田、アステラス製薬、第一三共の国内製薬大手3社がインフルエンザワクチンの開発・販売事業に参入を表明した。武田は米バクスター社と共同で生産・販売する。バクスターは09年の新型インフルエンザ流行時に世界で最も早くワクチンを出荷した実績があり、2012年にも武田の光工場(山口県光市)内に生産設備を設ける。

   アステラスは医薬品ベンチャー「UMNファーマ」(秋田市)と、共同開発・販売する。第一三共も「北里研究所」(東京都港区)との共同出資会社を2011年4月に設立し、北里研究所のワクチンの研究・生産部門を引き継ぐ。

   大手の参入を後押ししたのは、国の助成。厚生労働省は「半年で全国民分のワクチン生産」を目標に、従来の鶏卵でウイルスを培養する手法と違い、素早く量産ができる動物細胞などを用いた次世代技術を採用する企業に対し、補助金を出すことになった。既に実験プラントなどを整備する企業の募集を終え、武田薬品やUMNなど6社の支援を決定している。

背景には特許がからむ「2010年問題」

   大手のワクチン参入の背景には「2010年問題」もある。各社の主力医薬品の特許が、2010年前後に一斉に切れるのだ。特許制度に保護される医薬品は、特許が認められると、約20年間、他社が同じ成分の薬を製造・販売できないが、特許が切れると、安価な後発医薬品を販売できる。世界的に新薬審査が厳格化し、各社の新薬開発が進んでいないこともあり、影響は深刻だ。

   その点、ワクチンは「新薬開発が進まない製薬大手には、需要拡大が見込めるので、魅力的な分野。今後も国内製薬会社の参入は加速する」(業界筋)とみられている。

   ただ、世界のワクチン市場は、英グラクソ・スミスクラインやスイスのノバルティスファーマなど欧米企業が「圧倒的なシェアを占めている」(国内大手)。国内企業が量産体制を整え、ワクチンを収益源にするのは容易ではない。国内で技術を確立した上で、先行する欧米大手に対抗できる量産体制をいかに整えられるか、課題は大きい。

   いずれにせよ、国民にとっては、毒性の強い鳥インフルエンザは遠からず世界的に大流行すると予想されるだけに、いざという時に備えてワクチンの国産体制が拡充されるのは有難いことだ。