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「ロース」と「赤身」違います 焼肉メニューで消費者庁が「指導」

   焼肉店に入ったら、定番の注文はまず「ロースとカルビ」--。ひょっとすると、これが「うーん、赤身とカルビ」なんてことになるかもしれない。 消費者庁は2010年10月7日、焼肉業界団体に対し、メニューにある「ロース」表記の見直しを求めた。ロース部位ではない赤身肉を「ロース」として販売するのは、まかりならぬというわけだ。

景品表示法での改善指導

どうなる焼肉の「ロース」。
どうなる焼肉の「ロース」。

   業界周辺から情報提供があったらしい。消費者庁が調べたところ、焼き肉料理の「和牛ロース」などと表示されているメニューで、実際にはロースの部位とは違う「もも肉」「ランプ」などの部位が使われてケースが少なからず見つかった。同様のことは多くの焼肉業者で行われていたという。

   09年9月に発足したばかりの消費者庁が行政指導の根拠として持ち出したのが景品表示法。ロース問題は4条1項の「優良誤認」にあたる、という論理だ。

   日本食肉流通センターなどによると、同じ品質の牛の、もも肉がキロ2000円ならロースは4000円といった具合。小売段階でも倍近い価格差がある。もも肉をロースと偽って売るのは「実際のものより著しく優良であると一般消費者に示す表示」だと、全国焼肉協会に表示見直しを求めた。

   焼肉チェーン大手の「牛角」では、「あじわいロース」を490円で出している。「上カルビ」「上タン塩」などと同じ価格だ。「牛角」広報によると、同チェーンではメニューの「ロース」はロースの部位の肉を使っており、特に対応は行わないという。ところが、別のあるチェーンでは「ロース」の約3割が他の部位だったという。

戦後から続いた表記、半年後には厳正対処

   そのチェーンの運営会社によると、7日の消費者庁の発表を受けて調査したところ、ロースの代わりにバラ肉の赤身部分を使っていたことが分かった。近日中に全てをロースの部位に切り替えるとしている。担当者は、

「不当に高い値段で売っていたわけではありませんし、当然悪意もありません。あくまで美味しい赤身を『ロース』と定義し、美味しい赤身は他の部位にもありますよということで結果的に使っていた」

と話す。全ての店舗にロースの部位を行き渡らせるのが難しかったとも告白する。

   多くの店の受け止め方はもっと複雑だ。「焼肉店にくるお客さんだって赤身を『ロース』、脂身のあるものを『カルビ』と認識していると思う」。そのカルビについても韓国語で「バラ肉」を意味しているだけで、厳密な表示の基準はないという。

   スーパーなどの小売店は、1977年に農林水産省が制定した食肉小売品質基準で、「ロース」と表示されているものは「サーロイン」「リブロース」などのロースの「部位」を販売しなければならないと決められている。しかし、この基準はレストランや飲食店は対象になっていない。そこに、消費者庁の出番の余地があった。

   全国焼肉協会の井孝次事務局長は「焼肉は戦後生まれた新しいジャンルの食べ物。当初は、『ロース』と『カルビ』の2つのメニューしかなかった」と話す。食肉小売品質基準ができた後も、焼肉業界では「ロース」「カルビ」のメニュー表記を続けてきた。一方で食の安全への意識が高まっていることも意識して、ハラミやハツなどの内臓系についてはしっかり部位表記が行われることが多いという。

   消費者庁表示対策課の担当者は「焼肉業者と消費者の認識に乖離がある。いきなり処分するのではなく、業者にはまず認識を改めてもらう」。半年ほどで改善されない場合は、厳正に対処しているとしている。

   これに対し、中井事務局長は「消費者庁から指導のペーパーを受け取り、現在協議している。消費者との認識のギャップを埋めるべく、表示についてのマニュアルなどを作るか検討している」と話している。そのうち、焼肉店の壁に「赤身」という新メニューが加わることになるのだろうか。