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クマの出没が各地で急増 「ベビーブーム」も影響か

   全国各地でクマが人里に現れ人間が襲われるケースが多発している。天候の影響によるエサ不足が直接の原因と見られるが、根本的には人間と野生動物の共存が一段と難しくなってきている事情がある。折りしも生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10=名古屋会議)で生物の多用性を守るための方策が検討されているが、クマに限らず、サルやシカを含め、人間の知恵が問われている。

   2010年度のクマによる死者・負傷者は9月末で、全国で84人(環境省調べ)。10月に入っても10人以上が負傷し、被害者145人を記録した2006年度以来のハイペースだ。

ドングリが豊作で、2008年2月ごろの出産多かった

   出没が増えている要因が、エサのドングリ類の不作。2010年は作柄が周期的に変わるブナの実の不作の年であるのに加え、春先の低温と夏の猛暑の影響でミズナラの実も少なく、越冬前に食べ物を求めて人里へ出てきている、という。

   これに、ベビーブームが影響しているという指摘もある。マスコミでも紹介されているNPO法人「日本ツキノワグマ研究所」(広島県廿日市市)の米田一彦理事長の説。2007年はドングリが豊作で、2008年2月ごろの出産が多かったというのだ。

   根本的には、様々な要因でクマと人間の生活圏の境界がはっきりしなくなっている影響が大きい。中山間地、里山の森や林の手入れが過疎化や林業の衰退で行き届かなくなり、耕作放棄地も増えたほか、河川敷にやぶが茂るなど、クマがエサを取れ、身も隠せる場所が市街地近辺まで広がった――専門家はそう指摘する。

   狩猟人口の減少もある。高齢化と規制強化で散弾銃などを扱える第1種免許を持つ猟友会の会員は、最盛期の40万人から、10万人を割るところまで減っている。ハンターの減少で人間の怖さを知らないクマが増えているというのだ。

シカによる食害も拡大

   クマだけではない。静岡県東部で2010年8月以降、100人以上の住民がサルにかみつかれる騒ぎがあったのは記憶に新しいところ。人的被害はなくても、伊豆半島でのワサビの食害も深刻だ。

   世界自然遺産に登録されている屋久島(鹿児島県)ではヤクシカによる食害が拡大している。かつて「ヒト2万、サル2万、シカ2万」が共存していたといわれるが、農作物を荒らすほか、ツルランやヤクシマタニイヌワラビなど、環境省レッドリストに指定する希少種のランやシダ類を根こそぎ食べるなどの被害も懸念される。

   ヤクシカの生息頭数は現在1万2000~1万6000頭(08~09年調査)とされ、地元では年1000~2000頭の駆除が必要との声があり、環境省や林野庁などがヤクシカ問題に絞ったワーキンググループ(WG)を発足し対策に着手した。

   さらに、やはり世界自然遺産である北海道・知床でもエゾシカが激増して植物の芽が食い尽くされ、巨木は樹皮をはがされて枯れていく事態になっている。さらに春先の主要な餌をエゾシカに奪われたヒグマが、逆に本来はめったに襲うことがなかったエゾシカを捕食し始めるという珍現象も現れているという。

   明治期の豪雪で知床から姿を消したエゾシカが戻ってきたのはほんの40年前といい、国指定鳥獣保護区としてハンターに狙われることがないため、エゾシカの楽園になったようだ。北海道庁の推計では、09年度の全道の生息数は64万頭以上で、知床は越冬地として増加が著しいといい、本格的な駆除が進められようとしている。

   ただ、こうした駆除頼みは、所詮は緊急避難の対症療法。森林の下草を刈るなどきちんと管理して、クマが隠れる場所をなくし、人里との緩衝地帯にするほか、山奥にドングリなどの実がなる木を植えてエサを増やすなどの対策を地道に進めることが必要だ。