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新聞各紙に酷評された 民主党の税制改正大綱

   政府は2010年12月16日、臨時閣議を開き、2011年度税制改正大綱を決定した。民主党政権になって2回目の大綱は、法人税実効税率の5%引き下げなど企業関連で5800億円減税する一方、所得税の控除見直しなどで個人は6200億円増税するのが最大の特徴だ。

   デフレ脱却を目指し、企業優遇による経済成長を優先させるとともに、富裕層への課税強化という形での「格差是正」という政権の姿勢を前面に出した形だ。だが、子供手当の財源確保などを含め、目先の数字合わせに四苦八苦し、「高額所得者という取りやすいところから取るろうとしただけ」(エコノミスト)との批判も強い。

環境税を11年10月から段階的に導入

   法人税の実効税率を現行の40.69%から5%引き下げ、国と地方合わせた減税額は1兆5000億円になる。国税のみでは①法人税率下げで1兆3500億円②中小企業の法人税率も18%から15%に引き下げ700億円③雇用促進税制で700億円――の減税。その財源として、企業関連の税制優遇措置の縮小など国税6500億円の増税を盛り込んだほか、二酸化炭素(CO2)排出量の削減促進を目的に、2400億円の増税となる地球温暖化対策税(環境税)を11年10月から段階的に導入。これも企業負担と計算すると、その他も含め、企業関連の実質減税額は合計で5800億円になる。

   一方、個人は①サラリーマンの経費として一定額を収入から差し引く給与所得控除を、年収1500万円を超える世帯は上限245万円で頭打ちにする、②23~69歳の扶養世帯を対象とした成年扶養控除も年収586万円を超えると減り始め、689万円超でゼロになる、③相続税が基礎控除をこれまでの6割に圧縮するなど、家計は約6200億円の実質増税になる。

   控除見直しなどによる増税分のうち約2000億円は、子ども手当の上積み財源に回す。

   今回の法人税、個人の控除縮減、環境税創設などは「税制の常識では、それぞれ数年がかりの議論が必要な『大玉』ばかり」(財務省幹部)で、歴代政権が手をつけなかったテーマに大胆に踏み込んだ形だ。が、実際には評判は散々だ。

「帳尻合わせは限界だ」「財源手当はどうした」

   各紙の社説を眺めると、法人税には、財源の裏付けが不十分な中での「首相決断」での減税決定だったことから、「責任ある決断だろうか」(15日・毎日)、「見切り発車で大丈夫か」(同・東京)、「皮算用では心もとない」(16日・朝日)など懐疑的。税制大綱全体についても17日の社説で、「帳尻合わせは限界だ」(朝日)、「もう継ぎはぎは限界だ」(毎日)、「財源手当はどうした」(東京)と、数字合わせをこぞって批判。消費税を含めた税制の将来像、全体像の議論の必要に言及し、特に読売は「消費税抜きで改革はできない」と、議論の本格化を促した。

   専門家からも「控除見直しは子ども手当の財源を生み出すためという動機が不純」(石弘光・元政府税調会長=17日・朝日)、「理念がないままとりやすいところから取ることに終始」(井堀利宏東大教授=同・読売)などの酷評が目立ち、方向としては間違っていないとして「民主党政権だからこそ封印を解けた」と評価する森信茂樹中央大大学院教授も「国民は子ども手当や法人税減税の財源探しをしていた印象を受けるのではないか」(同・毎日)と苦言を呈している。

   政府は11年度から社会保障制度と消費税を含めた税制抜本改革の議論を本格化させ、11年半ばに抜本改革案をまとめる方針だが、ねじれ国会で11年度改正の関連法案の成立の保証さえなく、民主党内の政争の激化で菅政権の基盤が一段と不安定化する中、「不人気の消費税増税に踏み込むのは無理では」(経済官庁幹部)との悲観論が早くもささやかれる。