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八百長疑惑で角界去った力士 「第二の人生」は多難

   大相撲の八百長問題は疑惑認定者を処分したことで1つの節目を迎えた。引退届を協会に提出したのは23人のうち22人で、解雇の谷川親方は徹底抗戦の構え。今後の混乱を予想させる火種となった。

   調査委員会は八百長という表現を使わず「無気力相撲」として処分を決めた。不思議なのは八百長を認めた3人が「出場停止2年間」で、否定した者が「引退勧告」「解雇」となったことである。その3人は調査に協力した「司法取引」といえた。灰色の10人はおとがめなしだった。

当座の「退職金」を蹴って「プライド」を選んだ谷川親方

「これで一件落着、とはならないところがこの問題の深刻さと複雑さだ」

   協会関係者のこの言葉は、雨降って地固まるどころか、何が起こるか分からない前途多難を示唆している。処分については、彼らは相撲界の悪習の犠牲者、との擁護論もあるのだが、協会は5月場所無料開放-7月本場所再開のスケジュールに向け、トカゲのしっぽ切りで乗り切る手段に出たといえよう。

「私は十数年間、大相撲の世界にいたが、八百長などは一度もやったことはない」

   谷川親方の激しい抵抗発言だ。4月5日までに引退届を出せば退職金を支払うという協会の方針に異議を唱え、退職金なしの解雇の道を選んだ。

「引退届を出せば、自分が八百長をしたことを認めたことになる」

   この谷川親方の姿勢は宣戦布告ともとれる。引退届を出した22人は八百長に関与したことになり、角界を去った後は「八百長力士」の汚名を背負って生きていくことになる。

「自分がどんな状況に置かれているのか理解できない。これからどうやって生活していけばいいのか…」

   こう不安を見せたのは山本山。巨漢として話題を集めた力士として知られた。他の力士も同じ思いだろう。退職金は当座の生活費になるけれども、その後は厳しい。生活費ねん出のためにいろいろな手を考えるはずである。追放者の言動が大相撲を揺さぶる混乱の元になる可能性は大きい。

協会が恐れる黒い話がさらに飛び出てくる可能性

   角界を去った者たちの第2の人生は多難だろう。そこで第2幕が開く。

「このまま落着とはメディアが納得しないだろう。これから起こることの方が怖いかもしれない」

   大相撲ウォッチャーからはこんな声が聞こえる。まず考えられるのが「暴露」。週刊誌やネットで様々な話が出てくるだろう。すでに協会を相手に真っ向勝負を仕掛けている大手週刊誌があり、一層加速すると思われる。

   協会は本場所再開で正常化を図る一方で、元力士たちとのバトルを演じることになる。

   「大相撲VS追放者」の構図となり、本場所に対し、いわば「裏場所」である。裏だけに、協会が恐れる黒い話が飛び出てくるかもしれない。

「永久追放」されたプロ野球選手のその後

   かつてプロ野球も八百長問題で揺れた。1960年代終わりから70年代にかけて起きた、いわゆる「黒い霧事件」である。野球の試合だけでなく、公営競技も絡んだ騒動で、逮捕者も出た。プロ野球界は大物選手が何人も「敗退行為」と認定され「永久追放」された。

   球界を追い出された元選手はその後、ほとんどが「日陰げの人生」を送っている。中には流れ流れて遠洋漁船に乗り、そして亡くなった者もいた。この元選手は快速球の持ち主でエースの期待をかけられていた。

   力士は体が大きい。すぐ元の職業が分かる。野球選手と大きく異なる点だ。一般社会での生活は、自業自得とはいえ大変だろう。

「子供のころから相撲しかやっていないと思うので、一般社会の生活に慣れるのは相当の覚悟がいる。自営業に転じるのならともかく、会社勤めとなると、警備などの体を生かす仕事になるのではないか」

   ある人材派遣会社の話である。角界には「江戸の大関より地元の三段目」という言葉がある。三段目でも出身地のヒーロー、という意味なのだが、疑惑者が故郷を出た時のような環境で迎えてくれるかどうか。支援者というタニマチがどういう態度に出るか。ふる里に戻れない元力士もいるに違いない。

   「大相撲のために引退届を出した」と言った元力士がいた。この言葉を周囲がどう受け取るだろうか。角界を去った人たちは、まさにフンドシを締め直して新たな社会に臨むことしかない。

スポーツジャーナリスト 菅谷 齊