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東電「想定外の津波」と力説する理由 裏には「賠償免除」引き出す狙い?

   福島第1原発の事故を受け、事故対策と賠償の巨額負担のため「一時国有化」「公的管理」など実質破たんさせる観測が飛び交っていた東京電力の経営体制について、政府や電力業界の支援で「倒産」は免れる見通しが強まっている。電力の安定供給と賠償を総合的に考えると、事業を継続しながら長期にわたり費用を負担させる方が、経済合理性があるとの判断だ。

   今回の事故の損害賠償の枠組みを検討する政府の「経済被害対応本部」(本部長・海江田万里経済産業相)は2011年4月15日の初会合で、避難住民の当面の生活費として1世帯100万円(単身世帯は75万円)を仮払いすることを決めた。対象は12市町村4万8000世帯、総額は500億円。しかし、これは東電、国が背負う巨額の事故対策費、賠償負担の第1歩にすぎない。

「賠償機構」といった新組織を作る案が浮上

   事故がまだ収束せず、避難がどれだけ長期になるかの見通しが立たず、農漁業の風評被害を含めた賠償の範囲も定まっていないが、東電の負担は控えめでも1、2兆円、数兆円は確実と見る向きが多く、10兆円を上回るとの声もある。

   東電は社債の発行残高5兆円を抱えるうえ、今回の事故を受け金融機関から急きょ2兆円借り入れた。年間の電機事業収入が約5兆円、経常利益は2000億~4000億円で、1000億円規模のビルや遊休地、保有するKDDI株(時価1800億円)などの資産売却も進めるが、とても追いつかない。何の手も打たなければ、東電が巨額の賠償を担えないのが実態だ。

   そこで東電の経営をどうするか。事故後、通常の倒産・破綻処理案(JALのような会社更生法適用)のほか、丸ごと国有化案(株は100%減資で無価値化、社債償還も一定程度カットの可能性)、福島第1原発だけ分離して清算会社に移行する案、原発部門を分離して原発のみ国有化する案、さらに発送電分離案(東電から送電部門を分離して他の電力会社などに統合)などが飛び交った。

   が、どれも決め手を欠く中、有力になっているのが賠償のため「賠償機構」といった新組織を作る案。破綻銀行を処理する「預金保険機構」に倣い、政府保証の借り入れか、国債で資金を調達して賠償。機構は東電の優先株を引き受け、10年以上の期間をかけてその配当を受け取って借り入れを返済する――という構想だ。東電の年間支払い額は1000億~2000億円といった数字が取り沙汰されている。

最終的に料金アップの形で利用者に転嫁

   こうした議論は、経済の理屈に、合致してはいる。東電株、社債は額も巨額で、破綻させれば市場が大混乱に陥るのは必至。だから、「(国有化は)考えていない。収益を上げて補償金の原資を作ってほしい」と、海江田経産相は語った(15日の閣議後会見)。これは、小泉内閣時代の2003年、破綻したりそな銀行の「救済」に通じる手法だ。この時は、資本注入したものの、既存株式を無価値にせず、これをきっかけに株式相場が急騰した。 もちろん、徹底したリストラは大前提。経営トップの引責、役員報酬や退職金の返上など「しかるべく責任を明確にする」(電力業界関係者)。機構でも、東電は賠償のほか、原発事故自体の処理、他の火力など被災発電所の復旧、ガスタービン発電の増設、原油価格値上がりなど、支出が膨らむ要素が目白押しで、最終的に電気料金アップの形で利用者に転嫁される。この仕組みが機能しなければ国が被害を弁済するしかなく、税金で穴埋めすることになる。

   国有化などの荒療治を避けた機構案は、関係者の利害を考慮したものでもある。

「政府も同罪」で東電だけに責任を押しつけにくい

   政府には「弱み」がある。賠償は「東電が一義的な責任を負う」としているが、原子力損害賠償法は「異常に巨大な天災地変または社会的動乱」が起きた場合、電力会社の賠償を免除し、政府が「必要な援助を行う」規定がある。東電が「想定外の津波」と力説するのは、これを意識しているのは間違いない。原子力安全・保安院など行政側も東電と一体となって原発建設を推進してきたが、その安全対策に穴があったのだから、「政府も同罪」で、東電だけに責任を押しつけにくい。

   経済界も「東電救済」を切望した。経団連の米倉弘昌会長は4月11日の会見で、「国の全面支援は当然」と語り、奥正之全銀協会長(三井住友FG会長)も14日、「政府として力強く(東電支援を)約束して頂きたい」と促した。銀行、生保など金融界は株式、社債保有と融資のトリプルで東電との利害はズブズブの関係。株主名簿には第一生命、日本生命、三井住友銀、みずほコーポレート銀などが名を連ね、数百億円から1000億円超の評価損を被っている。前田建設などゼネコンなど株主は業種を越え分布する。

   個人投資家も深刻だ。東電株の44%は個人所有で、安定配当に定評のある電力株は値上がり期待より、配当目当ての年金感覚で保有する高齢者も多い。年金運用で東電株が組み込まれていることもあり、「東電株を紙くずにするわけにはないかない」(証券筋)という事情がある。