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東京電力債格下げ相次ぐ 引き金は枝野「債権放棄」発言

   東日本大震災後、一時停滞した社債市場が2011年5月以降、回復しているが、国内最大の発行残高を誇る東京電力債だけは別世界を歩んでいる。東電債は格付け会社による格下げが相次いでおり、枝野幸男官房長官が唱える「債権放棄」が現実化すると、再び社債市場全体が動揺する可能性も否定できない。

   米格付け会社スタンダード&プアーズ(S&P)は11年5月30日、東京電力の社債格付けを「BBB」から「BB+」に2段階引き下げた。

枝野発言以降、上乗せ金利が再び拡大

   BB+は投機的等級と位置づけられ、「投資不適格」の ランクだ。東電債がここまで格下げされるのは初めて。また、銀行融資の返済力などの信用度を示す「会社格付け」もBBBから「B+」に一気に5段階引き下げた。

   S&Pは格下げした理由について、福島第1原発事故処理が響き、2011年3月期連結決算に約1兆2000億円の最終赤字を計上し、財務状況が悪化したことを挙げた。これに加え、原発の損害賠償への政府支援の内容や正式決定時期がなお不透明で、取引銀行から債権放棄や既存融資の金利減免など、金融支援を受ける可能性が高まっていることを指摘している。

   東電の決算は10日も前の5月20日に発表されているだけに、格下げのトリガーを引いたのは債権放棄の可能性の方だと見られている。枝野幸男官房長官が東電に融資する金融機関に債権放棄を初めて公の場で求めたのは5月13日だが、その後も重ねてその考えを示していることに、市場がナーバスになっているからだ。

   東電社債は震災前には国債と同格の格付けを得て、 国債に対する上乗せ金利(スプレッド)も0.1%程度と最優良社債の一つだったが、震災で価格が暴落(金利は急騰)。4月中旬に2.6%程度まで拡大したスプレッドは5月上旬にいったん2.2%程度まで縮小したが、枝野発言以降、再び拡大しS&Pの格下げ時点で2.9%程度。格下げ後は3%を超えている。

東電除くと震災前の水準取り戻す

   東電を解体するというのなら、債権放棄もあるだろうが、今の姿で存続する前提を変えない以上、「債権放棄となれば投資家が東電にマネーを供給できなくなる」との懸念が広がっているためだ。

   東電以外の社債も震災後、東電につられてスプレッドが拡大し、4月の社債発行は日産自動車など一部に限られた。ただ、5月以降は信用力の高い銘柄を中心にスプレッドも震災前の水準を取り戻し、新日本製鉄やNTTなどの発行再開が相次いだ。関西電力や九州電力など東電以外の電力会社も6月以降に起債する方向で調整を進めている。償還時期を迎えた社債を抱える投資家の需要が強いことも背景にある。

   東電社債は日本の社債市場約63兆円のうち、発行残高約5兆円と最大で全体の8%を占めるだけに影響は大きい。しかし今のところ、関電が起債を計画するまでに状況は改善し、「東電抜きでの市場正常化」を模索する局面に来ている。

   問題は「債権放棄」の実現可能性だ。菅政権退陣が時間の問題とはなり、「枝野発言」の重みも変化しているが、次期政権が東電問題にどう対応するかは未知数だ。社債市場は不安を抱えながら 「東電抜き」で活性化できるかを探ることになりそうだ。