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「脱原発」世界中で奪い合い 天然ガス価格は上昇基調

   東京電力福島第1原発事故 や中部電力の浜岡原発停止の影響で原発の稼働停止が全国に広がり、電力各社は火力発電への切り替えによる燃料、特に価格が石油より安く、二酸化炭素の排出量が比較的少ない天然ガスの確保に懸命だ。世界的な脱原発や新興国の成長でガス需要は高まるが、新規開発も活発で、中期的にガス価格がどうなるか、関係者は注視している。

   直接被災した東京電力と東北電力はいち早くLNG確保に走った。LNGはCO2の排出量 が1キロワット時当たり500グラムと、石油の700グラム、石炭の900グラムより少ない上、価格も原油と比べると4分の1程度だ。

日本の原発停止に加え、欧州の脱原発拡大で価格は急上昇

   それでも、東京電は原発停止に伴う火力への切り替えで7000億円、東北電も同様に1825億円の負担増。定期点検が終わった玄海原発2、3号機再開の見通しが立たない九州電力は、石油元売り会社などとの交渉を重ね、調達のめどがついたものの、1日10億円、年間3650億円規模のコスト増がのしかかる。

   浜岡原発を停止した中部電力 も、三田敏雄会長自ら中東カタールに乗り込んで交渉し、LNGを確保し たが、コスト増は年間2500億円に上る。

   原発停止を契機にした発電コスト増(沖縄を除く9電力計) は、この夏に定期検査で原発が止まるのを含め、年間約2兆円にのぼる(毎日新聞6月7日付)という。経済産業省所管の日本エネルギー経済研究所が13日発表した試算では、54基の全原発が止まった場合には、年間の燃料調達コストは3.5兆円も増えるという。1家庭当たり1000円以上の 電気代が上がる計算だ。

   日本のLNG需要の増加に、ドイツなど海外の「脱原発」の動きも加わり、LNG価格は上昇基調だ。米国で、従来は採れなかった岩盤層に貯まったガスを取り出す技術が開発されたことから、米国内価格はかつての100万BTU(英国の 熱量単位)当たり10ドル程度から4ドル台に 劇的に下がった。

   しかし、米国は輸出を厳しく規制しているため、国際価格は米国内価格にストレートにはリンクしない。国際スポット価格も震災前までは9ドル台で安定的に推移していた。ところが、震災以降、日本の原発 停止に加え、ドイツなどで脱原発が拡大したことから、6月上旬には同13.5ドルへと急上昇した。

ロシアも輸出強化に意欲を見せる

   需要の拡大は開発も促進する。米国で技術開発されたシェールガスの潜在埋蔵量は世界33カ国で計6600兆立方 フィートと、これまでの世界の天然ガス全体の潜在埋蔵量の4割に相当 するという(米エネルギー省リポート)。

   国別では中国、アルゼンチン、南アフリカなどに豊富に存在するという。世界最大のガス生産国であるロシアも輸出強化に意欲を見せており、開発が進むサハリンに加え、極東シベリアのバイカル湖に近いチャンダ、コビクタの両ガス田の共同開発について、日本に秋波を送ってきているという。

   北極圏の開発も活発化している。ノルウェー最北部のメルケア島で、今年、LNG基地が稼働した。パイプラインで欧州などに送るには遠すぎるため、特殊なタンカーで米国やスペインにピストン輸送するが、地球温暖化で、北極海航路が開ける可能性がささやかれることから、将来は北極海からベーリング海峡を抜けて太平洋に出て日本などにも輸出することを想定している という。

   LNGはスポット取引より、20年などの契約が中心だが、日本の長期契約は世界的にみて高価格といわれる。「量的な安定調達を優先しすぎた」(業界関係者)ためとみられ、簡単には下げられないが、資源開発の活発化、特にシェールガスの拡大で「ガスの国際相場は下がるはず」(経済産業省OB)との声もある。しかし、中国やインドなどのエネルギー需要は旺盛で、福島第1の事故で 新興国での原発建設に暗雲もたれこめるだけに、ガス争奪戦の激化で価格高止まりの可能性もある。