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「人類は滅亡に近づいていく」 「世界一運の悪い男」の遺言映画、英国でも公開へ

   広島と長崎の両都市で原爆の被害を受けた二重被爆者の山口彊(やまぐち・つとむ)さん=2010年1月に93歳で死去=の「語り部」としての晩年を記録した映画「二重被爆~語り部・山口彊の遺言」が英国でも公開されることになり、その記者会見が11年7月19日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で開かれた。

   山口さんをめぐっては、英BBCのバラエティー番組が10年12月、「世界一運の悪い男」などと紹介したことで、BBCを批判する声が高まり、在英日本大使館も抗議、BBC側がその後「謝罪」する騒ぎとなっていた。

ジェームズ・キャメロンと病室で「原爆映画」を語り合う

稲塚秀孝プロデューサー(右)と山崎年子さん(左)
稲塚秀孝プロデューサー(右)と山崎年子さん(左)

   映画は、山口さんから05年から始めた「語り部」としての活動を紹介したもの。90歳で初めてパスポートを取得しニューヨークの国連本部で核廃絶を訴える様子や、09年末に「アバター」で知られるジェームズ・キャメロン監督が病室を訪問し、原爆をテーマにした映画の構想について語る様子などが収められている。

 

   映画に盛り込まれているインタビュー(07年収録)で山口さんは

「核は、平和的に利用すると言っても技術的に問題があり、今の技術、材料の材質では、自分の経験(造船設計)から分かるが、事故は止まらないと思う。だから核がなくならないならば、歴史は繰り返し、人類は滅亡に近づいていくと、私は思っている」

と、原発などの「核の平和利用」への疑念も語っている。

「英国の人に見てもらいたい」と父も言うだろう

   映画は7月16日から東京・渋谷の「渋谷アップリンク」などで公開されており、8月中にはロンドンでの上映も計画されている。BBCの番組をめぐる騒動を受け、英国でも山口さんの体験を知ってもらうことが目的だ。

   プロデューサーの秀孝さんは、

「(原爆の悲惨さを)伝える努力が日本側も足らなかったと思っているので、『山口さんの人生はどうだったのか、被爆体験はどうだったのか』といったことを知っていただきたい」

と、映画を英国で上映することの意義を強調した。

   山口さんの長女の山崎年子さんも、

「おそらく父ならば、『自分の気持ちが英国のみなさんに伝わっていなかったと思う。ドキュメンタリーが出来ているので、それを見て欲しい』と言うと思った」

と話す。

   BBCで「世界一運の悪い男」として紹介されたことについて、山崎さんは、

「核を持っている国の人からは、そういう風な言われ方はしたくはないというのが正直な気持ち」

   BBCからはマーク・トンプソン会長名で「不快な思いをさせて申し訳なかった」などとする文面が長崎市に届いたものの、長崎市が放送を要求しているドキュメンタリーの放送を約束するものではなく、遺族への直接の連絡はないという。 

「本当は、英国のバラエティー番組の方には分かっていただきたかったが、この(BBCからの型通りの謝罪の)手紙をいただいて、正直『脈はない』と感じた」

と、今も消えない失望感をにじませた。