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「iモードはインターネットじゃない」 ソフトバンク孫社長「真意不明」発言

   ソフトバンクの孫正義社長の発言が物議をかもしている。NTTドコモのインターネット接続サービス「iモード」に関して、「インターネットじゃない」などと手厳しく批評したのだ。

   しかも最初は決算発表の場で、さらに経済誌のインタビューでと、2度繰り返した。元NTTドコモ執行役員で、iモードの開発に携わった夏野剛氏はツイッターで孫社長に向け、「iモードに対する誤解は理解できない」と反撃した。

「10年前、どっかの国ではiモードなるものが」

1999年当時、携帯電話からネットにつながる先進的なサービスとして登場した
1999年当時、携帯電話からネットにつながる先進的なサービスとして登場した

   孫社長は「日経ビジネス」誌の2011年11月21日発売号でロングインタビューに応じ、同誌電子版では誌面の内容よりも厚い「拡大版」が掲載された。

   この中で、ソフトバンクが英ボーダフォンから国内携帯電話事業を買収する前の2005年、孫社長が米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏を訪ねたエピソードがある。携帯業界に新規参入するなら、音声通話中心のサービスではなく、「人がまだ見たこともないような画期的な武器が欲しい」と孫社長は考え、今日のスマートフォンのような端末をつくるビジョンを、ジョブズ氏に持ちかけたのだという。

   記者が当時の状況について、「携帯電話は日本が一番進んでいると言われていた」と話すと、孫社長は同意しながらも「OSも載っていない手作りのボタンだらけ。しかも画面が小さい」と振り返り、こう続けた。

「いわゆるiモードというのはインターネットじゃないんですよ」

   例えばウェブサイトを閲覧する場合、iモードではパソコンやスマートフォンで見られる「フルバージョン」とは異なる「簡易版」の携帯サイトがメーンだ。孫社長によれば、これは「特殊な画面サイズの特殊なアプリ」で、インターネットとは別物だと言いたかったようだ。

   実は10月27日に行われたソフトバンクの2011年第2四半期決算説明会でも、同様の発言をしている。こちらは「生声」だけに、よりストレートだ。「ソフトバンクは、ネット揺籃期からインターネットカンパニーだった」と語る孫社長。わずか10年で携帯電話の性能や通信速度は格段に向上しているが、何年も前から「スマートフォンの時代が来ると予測していた」と主張する。そのうえで、

「10年前、どっかの国ではiモードなるものが花盛りだった」

と、皮肉めいた言い回しを皮切りに「iモードが、インターネットができるものだと勘違いしている」「iモードのどこがインターネットだ」とバッサリ。今日のスマートフォンこそ本物のインターネットマシンであり、iモードを認めないような表現に終始した。

グーグル会長から「iモード尊敬している」と言われた

   一方、iモードの開発に携わった夏野氏は一連の発言に驚きを隠さない。10月27日の決算発表の後にはツイッターで「孫さんらしくない。どうしちゃったんだろう」といぶかっていたが、雑誌インタビューで再度iモードがやり玉に挙げられると、さすがに黙っていられなかった。11月22日には「いい加減堪忍袋の緒が…」「そこまで言うのだったら一度真剣に議論してもらいたいです。あくまでニュートラルに」とツイッターに書き込み、納得できない様子を見せた。

   iモードがサービスを開始した1999年当時、携帯電話からネットにつながる仕組みは世界でも画期的であり、夏野氏もiモードに対する自負があるのは当然だろう。当時の苦労に理解を求めつつ、「尊敬する方から否定発言されると言うのは本当に悲しい」と嘆いた。また、2000年代前半に「アイフォーン(iPhone)」のような端末はつくれなかったとも指摘。米グーグルや米アップルも日本を研究してきたと説明した。実際に夏野氏は、現在グーグル会長を務めるエリック・シュミット氏から「iモードを尊敬している」と直接言われたと明かした。

   夏野氏の反論が目に届いたのか、その後孫社長はツイッターで「夏野さん達が2000年代初期のあの時代にimodeを開発された事は、心から敬服しています」とこたえた。当時の携帯のCPUや通信速度、液晶の解像度を考慮すれば、本当のモバイルインターネットの実現は困難だったと続けた。10年前と今では、携帯端末の開発環境や部品の性能が大きく異なっている点を理解したうえで、当時の夏野氏の業績を高く評価しているようだ。にもかかわらず、わざわざiモードを名指しして「インターネットなんかじゃない」とこきおろしたのは、「iPhone」をはじめとするスマートフォンの優位性や、ソフトバンクが「先見の明」を持っていたことを際立たせたかったのか。真意は不明だ。

   孫社長はこれまで、全国に光ファイバー網を整備する「光の道構想」でITジャーナリストの佐々木俊尚氏と、また「脱原発」をめぐってはグロービスの堀義人代表と、それぞれ公開討論会を開いて徹底的に意見をぶつけあった。今回も、モバイルインターネットを題材に両者がとことん議論する機会は生まれるだろうか。