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「ソニーらしさ」本当に発揮できるのか 新社長の有機ELテレビ再参入宣言

   ソニーの次期社長昇格が発表された平井一夫副社長が、不振の続くテレビ事業について2年をメドに黒字化を目指すと明言した。

   コスト削減やテレビの機能性の追求に加えて、「有機ELテレビ」への再参入にも意欲をみせている。7期連続赤字と厳しい情勢を打開できるか。

「需要があれば出す」と明言

有機ELテレビはソニーが「元祖」だったが(写真は2007年の「CEATEC JAPAN」)
有機ELテレビはソニーが「元祖」だったが(写真は2007年の「CEATEC JAPAN」)

   平井副社長は2012年4月1日付で、ソニーの社長兼最高経営責任者(CEO)に就任する。2月10日付の主要各紙のインタビューで平井副社長は、テレビ事業の復活を目指すと強調した。

   テレビ事業は2005年3月期以降赤字が続いている。2011年11月2日、ソニーは2012年3月期の営業赤字が1750億円と過去最大になる見通しを明らかにした。累積赤字は7000億円に達するもようだ。この際に平井副社長は、2014年3月期の事業黒字化を目指すとする一方、「2013年3月期にテレビ販売4000万台」としていた中期目標の見直し、液晶パネルの調達コスト削減、製品ラインアップの見直しといった「再建計画」も合わせて発表した。

   今回の主要紙インタビューでも平井副社長は、「2年後に黒字化」を改めて宣言した。具体的には「売れ筋の液晶テレビの機能と性能を追求」(読売新聞)、「韓国サムスン電子との液晶合弁解消でパネル調達コストの削減」(日本経済新聞)などを挙げている。事業の撤退や生産拠点の縮小は、はっきりと否定した。

   興味深いのは、有機ELテレビへの「再参入宣言」だ。ソニーは2007年に世界初の有機ELテレビを発売したが、2010年に生産を終了している。2012年1月に米ラスベガスで行われた「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」では、韓国サムスン電子やLG電子が55型と大画面の有機ELテレビを出展して話題をさらったが、ソニーは「直接対決」を避けて「クリスタルLEDテレビ」という別の製品を展示した。

   平井副社長は朝日新聞のインタビューで、大型有機ELテレビについて「需要があれば出す」と断言。サムスンやLGが2012年中の発売を予定しているのに対して、時期についてコメントしなかったものの「ソニーらしさに応える商品を出すのが重要だ」と答えた。

「ソニーにはテレビ事業の戦略がない」

   「さよなら!僕らのソニー」(文春新書)の著者で、長年ソニーを取材しているジャーナリスト、立石泰則氏はJ-CASTニュースの取材に、「ソニーはテレビ事業の戦略がない」と言い切る。仮に有機ELテレビに再参入を果たすなら、「CESで発表したクリスタルLEDテレビはどうしていくのか、何の説明もない」。

   ソニーは2010年、米グーグルが開発したインターネットテレビを発売した。グーグルは、基本ソフト「アンドロイド」に代表されるように「オープンソース」の旗振り役で、テレビはメーカーを問わないというのが本音だ。それでもソニーは、「誰もがグーグルテレビを作れるようになる」というリスクをとってまでグーグルと組んだ。その結果は、販売面での大苦戦。「技術のソニー」を捨ててトレンドに走り、事態を打開できない迷走ぶりを、立石氏は著書で指摘している。

   今回の平井副社長のテレビ事業に関する発言も、「次世代テレビ」「ソニーらしい」との言葉が出ても具体的にこうしていく、という方針が見えない。

   「2年後に黒字化」と期限を設けて「公約」を掲げた点も、「あまり意味がない」(立石氏)。黒字化の中身が重要であり、徹底したコスト削減で利益を計上してもそれだけではジリ貧になる恐れがある。黒字化しても、魅力あるテレビ製品が生み出せるとは限らない。サムスンやLGだけでなく、米アップルがテレビ業界に参入するとの話が再三伝わっており、ソニーとしてどんな対抗策を打ち出すのか、明確にしなければならない。

   平井副社長はこれまで、ゲーム事業で腕をふるってきた半面、テレビ事業のオペレーションは経験がない。ただし、社長に就任する4月まで2か月足らずの「猶予期間」がある。立石氏は「それまでにテレビ事業の状況を把握し、どこに向かうのかロードマップをつくるべき」と話した。