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長距離ツアーバス事故の背景 労働環境に加え、シートベルトにも問題?

   7人が死亡した群馬県藤岡市の高速ツアーバス事故では、運転手の苛酷な労働環境が事故の背景にあるとみられている。さらに、ここにきて「シートベルトが壊れていたのではないか」という話も飛び出し、設備面も問われることになりそうだ。

   今回事故を起こしたバスは、旅行会社がツアーを企画し、バス会社から運転手とバスを借りる形で運行する「高速ツアーバス」と呼ばれる形態だ。事前に路線認可が必要な「高速路線バス」とは違って路線許可や運行計画の届出が不要なのが特徴。柔軟にダイヤが組める分コストカットもしやすく、利用者数も05年は約21万人だったが、10年には約500万人と、大きく伸びている。

シートベルトは「『あまりする人はいないよ』って言われた」

   事故を起こしたバスは、4月28日夜に金沢駅を出発。東京ディズニーランド(千葉県浦安市)に向かう途中の29日未明に惨事が起きた。事故の原因は居眠りとみられ、運転の交代要員がいないなど過酷な労働環境だったとみられる。

   だが、問題は労働環境だけではないようだ。各種の報道を総合すると、車内ではシートベルトについての呼びかけが行われなかった可能性が高いようなのだ。

   例えば5月2日放送のフジテレビ系のワイドショー「とくダネ!」では、乗客の家族が、

「壊れていたので、(運転手に)『直してください』という話をしたら、『あまりする人はいないよ』って言われた。『直してください』とお願いして、直してもらった」

と話している。さらに、その前日の5月1日の日本テレビ系「スッキリ!」では、別の乗客の母親が、

「(シートベルトが壊れていて)締められなかったから、そのまま『まあいいか』と思って寝ていたら、次の瞬間、どこかに飛んでいって気絶していた。気がついたら床に倒れているような感じ」

といい、シートベルトの故障が被害を拡大させたとして憤った。

   それ以外にも、少なくとも朝日新聞、毎日新聞、時事通信が、「シートベルトが壊れた」などとする乗客の証言を報じており、群馬県警では、車両の整備状況について調べを進める考えだ。

金沢から運賃3500円は「相場」

   事故を起こしたツアーバスの運賃は、片道3500円。複数のツアーバスの価格比較サイトで確認すると、時期によって若干の変動はあるものの、金沢-東京ディズニーランド路線では、4列シートの場合は3500円が「相場」のようだ。また、同じツアーバスでも、3列シートでやや乗車定員が少ないバスは、6000円程度だ。

   なお、ツアーバスでは、道路運送法上、「下請け」であるはずのバス会社だけが安全確保の責任を負っている形になっている。現に、ツアーを手配したハーヴェストホールディングスの大屋政士社長は、5月1日の記者会見の中で、

「普段、夜行バスを、あんまり外注していないところに行かせたのが要因」

と、事故に関する責任をバス会社に押し付けるともとれる発言をしている。

   一方、前出の「高速路線バス」では、金沢から東京ディズニーランドを直接結ぶ高速路線バスの路線はないが、金沢-東京線の場合、4列シートで片道5000円、3列シートで7840円。30~40%程度高い価格設定になっている。

   なお、路線バスの会社でつくる「日本バス協会」が11年1月に発表した「大阪地区ツアーバス実態調査報告書」では、設備面については「高速路線バスと何ら変わらない車両仕様」としながらも、平均速度が100キロを超えていたことについて、

「極めて視界が狭まる速度となり、運転者の精神的疲労度増が問題」

と指摘。深夜の路線バスでは、2時間をめどに運転を交代するのが通常だとされるが、調査では3時間5分にわたって連続運転していたことから、

「改善基準告示違反ではないが、3時間以上の連続運行は疲労増が考えられる」

としている。また、パーキングエリアで運転手が交代する際、本来ならは点検作業を行うことが必要だが、これを怠っていたことも明らかになっている。