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松井秀喜、最後のチャンスに挑む 「名誉ある引き際」を求めて

   浪人中だった松井秀喜が2012年4月30日、レイズとマイナー契約を交わし、ようやく働き場所を得た。開幕からすでに1か月がたっていた。メジャー昇格は今後の打撃次第だが、おそらく現役として最後のチャンス。むしろ「引き際」を見つけるシーズンとなるだろう。

オファーが来ない苦しさを味わう

   松井の職が決まった日、レンジャースのダルビッシュ有は、カナダのトロントでブルージェイズ戦に先発、7回まで1失点の好投で4勝目を挙げた。数年前までは、松井がヤンキースの主軸を打ち、ダルビッシュはその松井にあこがれる立場だった。いま37歳の松井と、25歳のダルビッシュ。勝負の世界の厳しさを象徴する日となった。

   入団会見に臨んだ松井はさすがにホッとした様子だった。「レイズに感謝している」。プレーするチャンスを与えてくれたことに本音をもらした。「(オファーを)待ちながら練習していた」と語った言葉に、単独練習の不安とつらさがうかがえた。

   まさか開幕までにチームが決まらないなどとは思いもよらなかったことだろう。「昨年の成績が悪すぎた(2割5分1厘、12本塁打)」と分かっていたものの、現実に誘いがない状況に実力の世界に身を置く厳しさを味わったに違いない。

   メジャー契約は40人。そのうち25人がベンチ入りし、残る15人はマイナー球団に預けられている。マイナー契約の松井はまず40人枠に入ることから始まる。その前にファーム球団で持ち前の打力をアピールし、代打が手薄になれば一気にメジャー昇格となる。

   レイズが松井を評価しているのは、なんといっても「勝負強さ」である。ヤンキース時代、ワールドシリーズでMVPを取った実績は魅力がある。変化球への対応は若手選手にはない技術を持っている。

   短期間の集中力が高く、爆発的な結果を残す打者だから、重要な時期に起用される可能性が高い。そういう意味では「強力なパートタイマー」だ。ただ守備と走塁は期待できない。故障したヒザの治り具合も心配である。レイズの本拠地トロピカーナ・フィールドは人工芝で、松井が「(ヒザに)人工芝はきつい」と敬遠していた球場。やはり打力で勝負ということになる。

松井の引き際は王タイプか野村タイプか

   かねて「日本球界への復帰は考えていない」と言っていた。名門ヤンキースの4番を打ったプライドを持つ松井にしてみれば、大リーガーとして現役を終えたい、という決意の表れなのだろう。昨年オフ、アスレチックスから自由選手になって以来ずっと「名誉ある引退の場」を求めていたのかもしれない。

   マイナー契約の最低保障は日本円でおよそ630万円(メジャーは約3900万円)。メジャーとマイナーでは天と地ほどの差がある。日本に戻れば億の年俸は間違いないだけに、松井の「大リーグ」へのこだわりを感じる。

   一流選手は現役を退くとき、大きく分けて二つのタイプがある。一つは「自分のプレーが見せられることができなくなったら退く」タイプ。もう一つは「オファーがある限りとことんプレーする」タイプ。

   前者は王貞治型で、王は30本塁打を打ちながら「ファンの期待に応えられなくなった」といってバットを置いた。念願だった「3000試合出場」まで169試合を残しての引退だった。後者は野村克也型といえよう。野村は「生涯一捕手」と言い、26年間もプレーし、日本球界唯一の3000試合(3017試合)出場を果たした。

   松井はどちらのタイプになるのか。日本人大リーガーとしてファンを興奮させてきたバッターだけに有終の美に向かって活躍してもらいたいと思う。ダルビッシュとの対決が見たいものである。

(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)