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就職先「公務員になりたい」が5割超す 本当に「楽で一生安泰」なのか

   就職活動に臨む学生にとって厳しい環境が続くなか、就活生の安定志向が顕著になってきたようだ。就職先として公務員が人気を集めているという。

   しかし近年は、公務員の採用人数減少や給与削減の話が進んでおり、自治体の中には財政破たん状態にあるところも出てきた。果たして一生安泰な職業と言えるのか。

リーマンショック後「公務員コース」受講生が増

過去の就職難でも公務員人気が高まった(写真はイメージ)
過去の就職難でも公務員人気が高まった(写真はイメージ)

   人材サービスを手がけるレジェンダ・コーポレーションが2012年5月22日に発表した、大学・大学院生の就職活動動向調査には興味深いデータが見られた。回答した721人のうち、「公務員になりたいと思ったことがある」と答えた割合が、半数を超える51.9%に上ったのだ。理由として最も多かったのは「長く勤められる」で42.5%、「リストラされない」が37.7%でこれに続く。

   学生本人が希望しているだけでなく、約7割が「周囲から公務員を就職先として勧められた」と回答。その相手は「両親」という人が72.5%と突出している。民間企業は近年、業界大手でも業績不振に苦しむところが少なくない。グローバル化の波が押し寄せて外国人採用を増やす企業が増えつつある。就職するのもひと苦労だが、入社後も早出やサービス残業が当たり前、社内外の競争も激しく先行き不安というところが少なくない。就活生やその親が、公務員なら競争が少なく勤務時間も比較的はっきりしており、将来も安心と考えても不思議ではないだろう。

   実際に、公務員を目指す若者は増加傾向にあるようだ。各種資格の専門学校・講座を運営する大原学園に取材すると、2008年秋に起きたいわゆる「リーマンショック」の後、公務員コースで学ぶ生徒が増えたと話す。大学在学中にいわゆる「ダブルスクール」として受講する学生だけでなく、高校を卒業後、あるいは大学を中退した後に大原学園に入学して公務員試験を目指す若者もいる。18歳人口が「右肩下がり」で減り続けるのとは対照的に、同校の入学者数はアップしているが、とりわけ公務員を希望する受講生は多いようだ。

   人材コンサルタントの常見陽平氏は、複数の大学のキャリアセンターと接触したうえで、就活生の間で公務員人気の高まりを「明確に実感しています」と話す。特に地方公務員が注目を浴びているそうだ。レジェンダの調査でも、公務員の中で希望する職種のトップは「市役所・区役所職員」だった。東日本大震災を境に、大企業でも「絶対安心」と思えなくなった就活生が、さらなる安全性を求めて公務員を目指す傾向が強くなったという。

人員削減に給与カットで「それほど楽じゃない」?

   過去にも不況の際には、就職先として公務員を選ぶケースが増えたことはある。それでも近年は、先行き不透明で未来が保障されない就職、就業環境のなかで若者のマインドも「確かな居場所が欲しい」として公務員を選ぶ風潮が以前より強まっていると常見氏は感じるという。

   だが「公務員もそれほど楽ではありません」(常見氏)。公務員制度改革の一環で野田内閣は2012年4月3日、2013年度の国家公務員の新規採用者数を2009年度比で56%減とすることを閣議決定した。これに先立ち2月には、国家公務員の給与を2014年3月末までの2年間、平均7.8%カットする特例法が成立、4月から実施されている。地方公務員にも今後、給与削減の波が押し寄せる可能性がある。

   自治体の組織も、例えば橋下徹・大阪市長のように首長が改革を推し進めれば、役所の職員は安穏としていられない。北海道夕張市のような「財政再建団体」では、乏しい予算で行政サービスを維持するために職員の負担は大きいだろう。「数十年先の国の体制がどうなるかは分かりません」と常見氏は、公務員になれば「一生安泰」という見方に疑問を呈する。

   インターネット上には、現役公務員がブログで「最近風当たりが強くなってきた」とぼやく様子が見られる。終身雇用を望む若者は、リストラされず定年まで勤めあげられる職業として公務員を考えるのかもしれないが、常見氏は「就職活動中に公務員のOB、OGと実際に会って、直接仕事の話を聞くことが大切」とアドバイスする。公務員の安定性に過大な期待は禁物、というわけだ。