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利益を削って消費増税分を負担 価格転嫁できない中小企業の苦悩

   消費増税関連法案の焦点の一つが中小企業の価格転嫁問題。増税分を取引価格に転嫁できない中小企業が続出し、経営が一気に悪化、倒産に追い込まれかねないとの懸念が広がっている。

   政府・与党は違法行為の監視強化などの対策取りまとめを急ぐが、果たして実効は上がるのか、中小企業者の理解を得られるのか。

増税後も製品価格を据え置きたい大企業

   企業は製品を売る際に受け取った消費税から、原料などの仕入れにかかった消費税を差し引いて納税する。しかし、デフレが長引く中、増税後も製品価格を据え置きたい大企業が、立場の弱い下請け企業への値下げ要求を強めれば、下請け企業側は自らの利益を削って消費税分を負担しなければならなくなり、実質的に増税分を価格に転嫁できなくなる懸念がある。

   そこで考えられている対策は大きく2本柱。監視強化と「カルテル」容認だ。

   この問題を検討する民主党の作業部会(WT)は2012年5月18日、独占禁止法の改正と、適正に価格転嫁されているかを監視する「転嫁Gメン」の新設を提言した。具体的には、大企業が増税分の転嫁を拒むことを禁じ、悪質な業者には罰則を設ける規定を独禁法に盛り込む。また、公取委や中小企業庁の人員を増やし、価格転嫁が適正に行われているか、中小企業の相談受け付けと実態をチェックする「Gメン」を設ける――などが柱だ。

「転嫁カルテル」を独占禁止法の適用除外として容認

   こうした提言を受け、政府は5月31日、価格転嫁対策の中間報告をまとめ、下請けなどの中小企業が増税分を製品価格に上乗せすることに限っては、同業者と共同で取り決める「転嫁カルテル」を独占禁止法の適用除外として容認することを打ち出した。具体的には、中小企業の業界団体などが対象の製品やサービスを決め、価格に転嫁する幅や時期を事前に取り決め、公正取引委員会に届け出れば、適用除外を認めることを想定している。

   1989年の消費税増税時にも転嫁カルテルは3年間の時限措置として認められたが、97年の5%へのアップ時は「消費税が定着している」として見送られた。今回認めるのは税率が2段階で2倍に上がる(2014年4月に8%、2015年10月に10%)ことを考慮したと見られる。

   与党、政府は価格表示の弾力化も検討。値札などに税込み価格を明記する「総額表示」を引き続き義務づけるものの、税率引き上げが2段階で行われるのに伴う値札の張り替えなど事務負担増に配慮し、書籍を対象に行われている「本体価格+税額」とする表示方法を他の製品にも拡大することで、税率引き上げへの企業の対応を容易にする方針だ。

公取委に相談したことが親企業に見つかれば、取引を切られる

   だが、実効性には疑問の声もある。97年の税率引き上げの際、公取委は価格転嫁の実態を把握しようと親企業1000社、下請け企業5000社にアンケートを実施。以来、追跡調査を毎年行い、2010年度は親企業の約3万8000社、下請け企業の約21万社に対象を拡大。調査で得た情報を手がかりに下請法を適用し、同年度は4226社を指導し、15社に勧告した。ただ、これらの数字は「氷山の一角」(中小企業団体関係者)というのが常識だ。

   大手メーカーの下請けが多い金型メーカーでつくる「日本金型工業会」は、加盟企業が全体の1割程度で、「転嫁カルテルを結んでも効果は限定的」という声もある。

   中小企業庁の2011年の調査によると、売上高1000万~3000万円の中小の64.5%が将来の増税時に「十分な転嫁はできない」と答えている。といって、「公取委に相談したことが親企業に見つかれば、取引を切られるから、下請け企業は公取委に出向こうとしない」(中小企業団体)。「中長期的には各企業が経営革新、イノベーションを起こすしかない」(上田清司埼玉県知事)というのは正論としても、税率アップまでの2年間に中小の足腰を強化するのは至難の業で、「倒産が激増する」(信用調査会社)との懸念は消えない。