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薬学部の就活「この世の春」 「6年制特需」ドラッグストアが積極採用

   厳しい就職活動を強いられている大学生が多いなか、薬学部の学生たちだけは空前の売り手市場で「この世の春」を謳歌している。

   2004年に開学した日本薬科大学の11年度の卒業生は100%(進学を含む)、進路を決めており、また城西国際大学薬学部の卒業生も99.7%が新社会人として、新たな生活をスタートさせている。

卒業生がいないから超売り手市場

   薬剤師の国家試験を受けるには大学の薬学部での履修が条件。薬物療法の高度化やジェネリック(後発)医薬品の登場で薬の種類が増えたことなどを受けて、薬剤師の専門性を高める狙いから、大学の薬学部は2006年に入学した学生から、それまでの4年制課程から6年制課程なった。

   4年制最後の卒業生は09年3月。そして、6年制最初の卒業生が12年3月というわけ。そのため、薬剤師国家試験合格者は09年には1万1301人を数えたが、10年に3787人、11年が1455人と激減してしまった。

   製薬会社や病院、薬局にとっては、この2年間はいわば採用したくても人材がいなかった。それを補うため、11年度の卒業生は「超売り手市場」になったわけだ。

   千葉県東金市にある城西国際大学薬学部は、「卒業生はほぼ100%就職先を決めていますが、やはり今年の卒業生は『特別』ですよ」(就職センター)と話す。

   そういった中でも、「学生たちは身近に感じたり、知名度のある企業から就職先を見つけていきました」と振り返る。

   最近は全国展開しているドラッグストアがあることや、地域の薬局チェーンなどに就職した学生は少なくない。同大学では、11年度は約69.4%の卒業生が調剤薬局やドラッグストアに就職した。

   ただ、製薬会社は国内に70社(日本製薬工業協会の加盟企業、12年6月1日現在)あるが、「狭き門」であることに変わりはないともいう。製薬会社でも、研究から製造・営業と職種はさまざま。いくら「引く手あまた」とはいえ、必ずしも希望どおりに入社できるわけではないし、「企業側がかなり採用人数を絞っていることは影響していますね」と話す。

   優秀な学生だけを採用しようとしていて、「製薬会社の採用試験を受けて、落ちてきた学生もいました」という。同大学から製薬会社に就職した卒業生は7.5%だった。

地方の病院や薬局は「薬剤師不足」が深刻

   薬剤師不足は地方ほど、しかも小さな薬局ほど深刻で、「ドラッグストア大手などに(人材を)持っていかれて、町の薬局は閉めるしかなくなる」という事態に陥っている。埼玉県伊奈町にある日本薬科大学では「家業(薬局)を継ぐ卒業生もいました」(キャリア推進グループ)と話すが、そんなケースは希なようなだ。

   病院に勤める卒業生もあまり多くない。病院の採用は欠員がなければ募集がかからないケースも少なくなく、新卒採用とうまくマッチングしないことが原因とみられる。ただ、病院からの求人がまったくないわけではなく、地方の病院などからは毎月のように寄せられている。

   とはいえ、今春の卒業生のような「特需」がいつまで続くのだろう――。そもそも、薬学部を新設する大学が増えたことなどで、薬剤師の「質」の低下や供給過剰をいぶかる声がないわけではなかった。

   城西国際大学は「(好調なのは)6年制が軌道に乗ってくるまで。そう長くはないでしょう」とみている。いまのところ、ドラッグストアの強気な採用意欲に支えられているともいえそうだ。