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「引き分けでいい」なでしこ監督指示 フェアプレー精神に反しているのか

   なでしこジャパンの佐々木則夫監督が、五輪女子サッカー決勝トーナメントを有利に進めようと予選2位通過の指示を出したことが、議論を巻き起こしている。南アフリカ戦ドローは狙い通りというが、吉と出るのか、凶と出るのか。

「選手には、つらい思いをさせたかもしれない」
「試合を見ている人たちには、申し訳なかった」

「素晴らしいシュートは止めてくれ」

   2012年7月31日の南アフリカ戦を終えた後、佐々木則夫監督は、報道陣を前にこう声を絞り出した。

   すでに予選通過を決め、この一戦では、澤穂希選手ら主力を休ませて、メンバーを7人も入れ替えていた。試合中は、FIFA(国際サッカー連盟)ランク61位という格下を相手に、攻撃が噛み合わず、0対0のまま後半戦に突入した。そして、同じF組の予選で、カナダが1点を入れ、スウェーデンと2-2の同点に追いついたときだ。佐々木監督が報道陣に明かしたところによると、この後半戦途中で、選手らにスコアレスドローのまま試合を終えるよう指示を出した。

   それからの日本は、明らかにパスを回すことだけに集中していた。佐々木監督によると、後半13分にMF川澄奈穂美選手を投入したときにはすでに、「申し訳ないけど、カットインしての素晴らしいシュートは止めてくれ」と伝えたという。

   選手らに異例の指示を出したのは、もし日本が勝って1位通過になれば、8月3日の準々決勝戦までに、この日の会場カーディフより遠いグラスゴーまで丸1日かけて移動しなければならず、選手らに負担がかかる心配があった。さらに、1位通過でG組2位との組み合わせになって、五輪前に日本が負けたフランスか強豪アメリカと対戦するのを避けたかったからだとされている。グラスゴーでは、気温が低くなるため、選手らの体調面も考慮したともいう。

   日本の2位通過が決まったため、準々決勝では、E組2位との組み合わせになり、イギリスに負けたブラジルと日本は対戦することになった。

FIFAの規律委員会で問題になる?

   佐々木則夫監督の異例とも言える告白に、ネット上では、疑問の声も漏れている。「なんだろう、スッキリしないな」「こんなの言っちゃうのはどうなん」「なんかこういうセコイ発想だと初戦で負けそうw」…

   一方で、佐々木監督を支持する声も多い。「あくまでゲームなんだから、反則行為以外は何でもアリだよ」「引き分け狙いも立派な戦術だ」「それで、負けたらというのは、覚悟してるだろうよ」といった書き込みだ。

   サッカー関係者の見方も、割れているようだ。

   日経新聞のコラムでは、サッカージャーナリストの大住良之さんが「意図的に勝とうとしないことは、明らかにフェアプレーの精神に反している」と批判的な記事を書いた。佐々木監督のドロー狙いの発言について、競技を運営するFIFAの規律委員会で問題になるのではないかとも指摘している。

   一方、スポーツナビのコラムでは、フリーライターの江橋よしのりさんが「南アフリカ戦で見せた『なでしこの知性』は、このように『目的の優先順位』を見誤らなかった」と佐々木監督を評価し、「グループリーグを『金メダルを狙うため』の環境づくりに費やすことに成功した。恥ずべきことではない」と言っている。

   佐々木監督の戦略について、日本サッカー協会の広報部では、「現地から情報が入ってきていないので、何とも申し上げられません」と言う。今回のことでFIFAなどから言ってきたこともないといい、「日本は日本の戦いをしていると思います」としている。JOC(日本オリンピック委員会)の広報担当者も、ペナルティーを課すなどの話は聞いていないと話した。

   なお、五輪のバドミントン競技では、国際バドミントン連盟が「無気力試合」があったと非難するケースがあった。決勝トーナメントでの組み合わせが有利になるよう、わざとポイントを落としたといい、処分の可能性も報じられている。