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メール誤送信で記者が「諭旨免職」 読売西部本社、編集局長も更迭

   読売新聞西部本社の社会部記者が、うっかり取材メモを他社の記者にメールで誤送信し、取材情報を社外に流出させてしまった。中にはきわめて秘密性の高い警察情報が盛り込まれていた。

   流出させた記者は諭旨免職、他の誤報もからんで編集局長は更迭、社会部長は降格という厳重な処分が下された。「メールの誤送信」という単純なミスが、なぜこんな大ごとになってしまったのだろうか。

誤送信後慌てて電話でメールの削除を依頼

読売新聞西部本社(2009年3月撮影)
読売新聞西部本社(2009年3月撮影)

   2012年8月14日付の読売新聞によると、この記者は7月20日、福岡県警の警察官による贈収賄事件に関して、捜査関係者に取材した内容の一部をデスクや同僚記者にメールで送信しようとした。ところが、誤って福岡司法記者会に加盟する新聞・テレビ・通信社あわせて13社の記者に送信してしまったという。

   暴力団排除に警察が全力を挙げている福岡県では12年4月、指定暴力団工藤会の捜査にあたっていた福岡県警の元警部が銃撃されるという事件があった。県警は全国の警察からの応援を受けて暴力団捜査に総力を挙げているところだった。メールに書かれていたのは、その福岡県警のある警察官が、捜査情報を暴力団側に流す見返りに現金を受け取ったという疑惑だったようだ。メールを誤送信した記者は裏付け取材のため、捜査関係者を取材していたらしい。

   5~10分後におかしいと気づいた他社の記者2人から「送り先が間違っている」という連絡があった。読売の記者はすぐに全員に「変なメールを送ってしまいました。申し訳ありません」と書いたメールを一斉送信した。さらにその後、社会部長の指示で改めて全員に電話でメールの削除と内容を外部に漏らさないよう依頼し、了承を得たという。

   しかし誤送信の翌日、7月21日付の読売新聞朝刊(西部本社版)には、県警東署の男性警部補が贈収賄をした疑いが強まったとして、県警が任意で事情聴取をしているという記事が掲載された。これは誤送信された取材メモをもとにした記事だと思われる。朝日新聞などはその日の夕刊で読売の報道を追いかける形で記事を掲載した。

   さらに誤送信から2日後、7月22日付の読売新聞朝刊(西部本社版)1面に、福岡県警が工藤会の関係先を捜索した際に「工藤会関係者への職務質問の方法について周知させるための本部長名の通達文書」が発見され、県警が流出の経緯を調べているという記事が掲載された。

   ところが、この記事については8月8日になって、「捜査手法に関する『本部長通達』が関係先の捜索で見つかった事実はありませんでした」という訂正が出た。

現役記者は「記者をクビにするのは理解できない」

   実は「取材メモの誤送信」は8月1日、一部ニュースサイトで記事として掲載されていた。そこには誤送信されたという取材メモの全文も掲載され、情報源がわかる状態になっていた。それによると、この贈収賄事件を警察が内偵しているということは朝日新聞をはじめ記者クラブでは既に知っている社があったという。

   一般的に贈収賄事件は、情報を入手しても捜査の進み具合などもからんで記事を書くタイミングが難しいとされる。すでに情報を入手していた社は、書く時期を見計らっていたのかもしれない。実際に警部補が逮捕されたのは7月25日。このあと毎日新聞には、すでに20日に、この警部補に毎日の記者が疑惑を問いただしていたという記事が掲載されている。

   読売新聞西部本社は記者の諭旨免職、井川隆明取締役編集局長の役員報酬2か月30%返上のうえ更迭、井川聡社会部長を降格などとする処分を決めた。

   インターネット上では「過失でこの処分は重すぎではないか」という意見も出ているが、読売新聞記者行動規範には、取材源の秘匿について「最も重い倫理的責務である」と規定している。これを破ったこと、対応が不手際だったことが重大視され、今回の大掛かりな処分につながったようだ。

   今回の事件は、メールで取材班の情報を共有することが日常化しているマスコミ関係者に衝撃を与えた。

   ツイッターで、朝日新聞記者の神田大介氏は疑問を投げかけている。個人の見解ということだが、現場の記者より、安易にメールで取材メモを共有させていた側に問題があるのでは、という。

「もちろん誤送信はいけません。しかし、そもそも取材メモをメールさせていたのって、誰なの。秘匿すべき取材源の情報を含むメールを送信していたのは、100%この記者の個人的な意思によるものなの。たぶん違うでしょう。メールによる取材メモ共有って、広く行われていますからね」

   また、ニュースサイトに流出した取材メモの内容にあることを紙面で報じてしまったため、流出内容が事実であると認めてしまったも同然だと指摘。記事化は現場の記者の判断ではないはずとした上で、「どう考えても、末端の記者をクビにして責任を取るというやり方は理解できません」とツイートした。

   8月14日の毎日新聞の夕刊では、元読売新聞記者のジャーナリスト、大谷昭宏さんが「最大の問題は誤送信した取材メモの事件について、記事にしたことだ」とコメント。誤送信の内容を記事で裏打ちしたことで「情報源に二重の苦痛を与えることになった」。デスクや社会部長が根本的な過ちを犯したと指摘している。