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「竹島問題」国連司法裁判所に付託困難 国際社会に訴える手段はないのか

   島根県・竹島の領有権をめぐって韓国が攻勢を強めるなか、玄葉光一郎外相は国際司法裁判所(ICJ)へ提訴する考えがあると話した。

   しかしICJに付託するには、当事国の間で合意が必要となる。韓国側は裁判に応じない姿勢を崩さず、現状では打開策が見当たらない。

米国も「竹島は日本領」との認識だった

国際司法裁判所での審理の様子(Copyright: UN Photo/ICJ-CIJ/ANP-in-Opdracht/ Frank van Beek. Courtesy of the ICJ)
国際司法裁判所での審理の様子(Copyright: UN Photo/ICJ-CIJ/ANP-in-Opdracht/ Frank van Beek. Courtesy of the ICJ)

   ICJは国連の主要な司法機関として、1946年にオランダ・ハーグに設立された。訴訟当事者となれるのは国家に限られるのが特徴で、過去にも領土問題を中心に各国間の紛争を取り扱ってきた。ICJのウェブサイトを見ると、近年でもアフリカ・ブルキナファソとニジェールによる国境問題、南米・ペルーとチリの間で起きた海洋紛争など多くの裁判が行われているのが分かる。

   竹島には2012年8月10日、韓国の李明博大統領が突然訪問した。ロンドン五輪でサッカー男子韓国代表の朴鍾佑選手が試合後に「独島(竹島の韓国側の呼称)はわが領土」と書かれたカードを掲げたり、竹島上陸を目指して韓国の歌手や俳優が遠泳したりと、領有権を主張する声がますます高まっている。

   「決着」をつけるには、国際機関であるICJへの付託が相応しいと考えられるが、ひとつ問題がある。ICJ規定40条1項に「裁判所に対する事件の提起は、場合に応じて、特別の合意の通告によって、又は書面の請求によって」手続きを進めることとされている。「特別の合意」とは、特定の問題を争っている複数の国々が共同で裁判所に付託するという意味だ。つまり日韓両国の合意がなければ、ICJの管轄権は設定されない。

   日本は1954年と1962年の2回、韓国側にICJへ竹島の領有権問題の付託を提案したが、いずれも韓国は拒否した。外務省によると、1954年に韓国を訪問した米国のヴァン・フリート特命大使が帰国報告の中で、「米国は竹島を日本領と考えているが、本件をICJに付託するのが適切と考えて韓国側に非公式に伝えた」が、韓国側は「島は鬱陵島の一部」と反論したとつづった。今回の玄葉外相の発言に対しても、韓国外交通商省は「ICJに行く理由はない」と話しており、「特別の合意」が得られるムードは皆無だ。

   ICJ規定には、36条2項に「選択条項制度」の定めがある。当事国が、将来ICJに付託するような問題が発生した際に備えて、あらかじめICJの管轄権を受け入れると宣言しておくものだ。この制度を受け入れた国同士であれば、「特別の合意」を結ばなくても一方的にICJへの提訴が可能となる。しかし外務省国際法課に取材すると、「日本は宣言をしていますが、韓国は宣言していません」。これでは結局、ICJへの付託は不可能なままだ。

訴訟のための書類送付「すら」していなかった

   仮に韓国の合意が得られなくても、日本単独で行動を起こすことで1歩が踏み出せないだろうか。外務省国際法課では「(日本側から)アクションはとれます」と話すものの、仮に日本だけが訴え出たところでICJは審理を開始できないとも説明する。韓国が「知らん顔」をしている点をICJに訴えて、韓国が裁判を受け入れるように促してもらおうと期待しても、国連機関であるICJが日本に「肩入れ」する動きをみせる可能性はゼロといえよう。

   ICJの枠を超えて、国連の別の場で国際社会に日本の立場をアピールするのはどうか。国連総会では、過去に何人もの国家元首が演説の中で一部の国を非難したり、自国の立場を訴えたりした事例がある。野田佳彦首相が総会スピーチで竹島問題を取り上げ、韓国を批判し続ける――。論理的には可能だろうが、日本の国際社会における役割を考えると非現実的な選択だ。

   今のままでは、竹島問題は八方ふさがりなのか。元防衛省・防衛研究所統括研究官の武貞秀士氏は、2012年8月16日放送のテレビ朝日「モーニングバード!」の中で、過去2度にわたって韓国にICJへの付託を拒否された件に触れて、「日本側はハーグ(ICJ)に書類を送っていない」と指摘した。確かに日韓双方の合意がなければICJの管轄権は設定されない。だが、書類の送付「すら」していない、つまり世界に向けて何のアピールもしてこなかった事実を問題視したようだ。

   今回、李大統領が竹島を訪問した点を重く見る武貞氏は、ICJへの付託に賛同する。仮に韓国が応じないとしても、何らかの形で訴訟の書類を提出すべきだと強調する。すぐさま審理開始とはいかないが、国際社会を喚起して竹島問題に注目を集めれば、韓国も裁判に応じない理由を説明しないわけにはいかなくなる、というねらいとみられる。