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サイボーグ化される「奇跡の一本松」 1億5000万円もの費用に疑問の声

   巨大津波に耐えた岩手県陸前高田市の「奇跡の一本松」が、1億5000万円をかけて保存工事が行われることになり、ネット上で論議になっている。

   7万本もあった名勝「高田松原」は震災直後、一瞬のうちに壊滅状態になってしまった。その中で、唯一立ち残ったのが「奇跡の一本松」だ。

「石碑やレリーフなどで代用できる」

保存は本当に必要?
保存は本当に必要?

   その姿は、市民に勇気を与え、復興のシンボルともされた。ところが、地震による地盤沈下で、海水が土壌にしみ込んで塩分が多すぎる状態となり、一本松は徐々に衰弱が進んで枯死と診断された。

   これに対し、陸前高田市は、一本松の保存に乗り出すことを決め、2012年9月12日から工事に着手することになった。作業では、高さが27メートルもある一本松を根元から切り倒し、幹を5分割して、その芯をくり抜く。そして、防腐処理をしたうえで、金属製の心棒を幹に通してモニュメントにする。震災2周年の節目になる13年3月11日には、元の場所でお披露目したい考えだ。

   1億5000万円もの費用については、税金は使わず、募金で賄いたいとする。それは、被災地の課題が山積しており、保存に多額の予算は投じられないとの判断からという。市は、12年7月5日に「奇跡の一本松保存募金」のサイトを立ち上げ、フェイスブックからも募金の受け付けを始めた。

   とはいえ、ネット上では、被災者が未だに避難生活を続けている中で、一本松の保存に多額のお金を投じることに疑問の声が多い。

   「さすがに高すぎだろ…」「もっと他に金をかけるとこがあるのでは?」といったものや、石碑やレリーフなどで代用できるのではないかという意見も多かった。また、一本松の接ぎ木で苗が育てられていることから、こうした試みで十分ではとの声もあった。もっとも、「観光のシンボルにして町興ししようとしてるんだろう」などと理解する向きはある。

   多額出費の理由について、市の都市計画課では、こう説明する。

寄付金借用で災害復旧に支障が出る?

「これだけの高さの木を保存するのは、世界でも例がないことだと言われています。工事はとても困難で、複雑な構造計算が必要なうえ、特殊な工法を使わないと、強度を保つことができないんですよ」

   そのため、一般競争入札は行わず、2社の提案を比較検討し、東京が本社の業者と随意契約する準備を進めているとした。業者名や技術内容については、2012年9月5日の会見で公表するとしている。

   陸前高田市の都市計画課によると、募金は、8月末までに2200万円が集まった。もちろん、これではとても足りず、当座の資金として、市の「東日本大震災絆基金」から一時的に借用する考えだ。

   絆基金は、災害復旧・復興のため市がホームページなどで募っている一般からの寄付金4億円余が積み立てられている。用途はまだ決まっていないが、道路や住宅の整備などに使われる可能性がある。一本松の保存工事にはあと1億円以上足りず、もし基金のお金がその分借用されるなら、災害復旧などに支障が出ることにはならないのか。

   この点について、市の財政課では、こう説明する。

「災害復旧などについては、国からお金が出ており、当面はそれで賄えます。5~10年は大丈夫と考えており、すぐに支障が出ることはないと考えています」

   寄付金の目的外使用に当たらないかについては、「寄付金をそのまま充当すれば、確かにその通りになります。しかし、一時的な借り入れですので、目的外使用には当たらないと思います」と言っている。