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尖閣侵入の台湾漁船団支援の黒幕は 日本企業の技術もとに中国で大成功した菓子メーカー

   日本政府による尖閣諸島の国有化で中国との関係が悪化するなか、今度は台湾の漁船団が日本に抗議するため尖閣へ向かい、一時領海に侵入した。

   東日本大震災では被災者向けに200億円の義援金を集めるなど対日感情がよいとされる台湾に何か異変が起きているのか。背後には、中国市場で成功を収めた台湾企業のオーナーの存在があり、事態は複雑な様相を帯びている。

中国で1日3億枚のせんべいを売る

旺旺のウェブサイトより
旺旺のウェブサイトより

   尖閣沖に姿を現したのは、漁船と台湾の巡視船の約50隻だ。2012年9月25日午前には日本の領海に侵入し、海上保安庁の巡視船との間で「放水合戦」を繰り広げたが、その後領海を出て26日未明には台湾の港に戻った。

   やって来た漁船は「旺旺」と書かれた横断幕を掲げていた。これは台湾のお菓子メーカー「旺旺」を指すという。どうやらこの企業がスポンサーとなって、抗議船団の結成を実現したとみられる。複数のメディアは、旺旺が漁船団に約1300万円の資金を提供したと伝えた。

   旺旺は、実は中国と深いかかわりがある。1994年に中国市場へ進出し、今では同社が生産するせんべい菓子が1日で3億枚も売れているのだ。中国を重視している様子は、同社のウェブサイトからもうかがえる。トップページを見ると、台湾企業でありながら、お菓子を模した複数のキャラクターがそれぞれ中国の国旗を持ち、10月1日の中国の建国記念日「国慶節」をお祝いするようなアニメーションが流れていた。

   9月26日に放送されたテレビ朝日の情報番組「モーニングバード!」で、外交政策研究所代表の宮家邦彦氏は、旺旺の蔡衍明社長が中国と親密な関係にあるとみられると指摘した。旺旺にとって、今や中国市場でのビジネス抜きには経営が成り立たないほど依存度が高まっている。一方、台湾の漁民にとっては日本の尖閣国有化で周辺海域での操業ができなくなれば死活問題だ。蔡社長は中国当局への「忠誠」をアピールしつつ、漁民たちへの理解を示そうと「軍資金」を出して、抗議船を送りだしたとのではないかと推測できる。

日本の米菓子メーカー創業者を「旺旺の父」と呼ぶ

   今では中国に「ベッタリ」の印象が濃い旺旺だが、日本との間にも切っても切れない縁があった。「東洋経済オンライン」は2011年10月12日、蔡社長のロングインタビューを掲載。この中で、倒産寸前だった旺旺の前身会社が今日のような大企業に成長した功労者として日本企業の名を挙げている。新潟県の米菓メーカー、岩塚製菓だ。

   蔡社長は、当時の岩塚の社長で創業者の槙計作氏(故人)に提携を持ちかけた。断られながらも粘り強く交渉を重ねて、最後は直談判で了承を得る。蔡社長は今も槙氏を「旺旺の父」と尊敬し、自社の経営理念には槙氏の言葉を取り入れた。ウェブサイトを見ると、旺旺の新社屋の除幕式には岩塚製菓の現社長を招き、同社の上海本部には槙氏の銅像を建てたと書かれている。

   日本企業から受けた「恩」に誠実にこたえていた蔡社長が、その日本に向けて弓を引くように抗議船の「黒幕」になったとしたら、それほど中国の存在が大きいという意味だろうか。専門家の中には、中国側が日本にさらなる揺さぶりをかけるため、旺旺に協力を呼びかけたのではないかと見るむきもあった。

   旺旺は現在、新聞「中国時報」やテレビ局「中天電視」のオーナーで、ラジオや雑誌も持つ一大メディアグループとなっている。だが台湾内では、旺旺のこうした動きを必ずしも歓迎していない。マスコミ独占に危機感を抱いた市民が反対デモを開いたこともある。