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高橋洋一の民主党ウォッチ
まだまだある「被災地以外」バラマキ 震災復興増税批判に官僚は開き直り

   2011年度から5年間で19兆円以上の復興特別会計予算の使われ方が問題になっている。はじめは週刊誌、そしてテレビが報道しはじめ、問題が広がっている。

   被災地以外の工場立地などのための国内立地推進事業(2950億円)、反捕鯨団体の妨害対策(23億円)、首都圏の国税庁耐震改修工事費(12億円)、青森・茨城での国際核融合実験炉(42億円)、アジアからの青少年との被災地交流(72億円)、沖縄の国道整備(34億円)、新宿区の国立競技場補修(3.3億円)、刑務所の職業訓練拡大(0.3億円)などがやり玉に挙がっている。

ドサクサ紛れで予算

   これらは震災復興というドサクサ紛れで予算がつけられたといわれている。ちなみに、震災前の2011年度予算で概算要求されていたものもある。

   19兆円のうち10.5兆円は復興増税による。国民は復興増税を許したのは、理由が「震災復興」だからというのが素朴なところだ。被災地へ寄付金を送る感覚で増税を甘受したのだろう。

   振り返ると、震災直後から、国民の連帯の必要性が強調され、復興増税が叫ばれていた。通常の経済理論から、震災時の増税は被災地のショックを全国に拡散するだけで百害あって一理なしなので、筆者は反対し、オーソドックスな国債発行、それと現下のデフレを克服するために日銀引受の組み合わせという政策をあげていた。

   今日の復興予算へは、震災直後から着々と布石が打たれていた。財務省主導の下で復興増税を提唱した東日本大震災復興構想会議だが、同時に復興予算をばらまく思惑もあった。2011年5月10日の「復興構想7原則」の原則5で「被災地域の復興なくして日本経済の再生はない。日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はない。この認識に立ち、大震災からの復興と日本再生の同時進行を目指す」と書かれている。

   つまり、当初から復興予算を被災地以外にばらまくつもりだったのだ。

   これを受けて、6月24日に成立した「東日本大震災復興基本法」の第2条(基本理念)の中に、「単なる災害復旧にとどまらない活力ある日本の再生を視野に入れた抜本的な対策」という文言がある。

「財源を増税に」「支出を復興以外に」という二重の失敗

   さらに、これらを受けた7月29日の政府の「東日本大震災からの復興の基本方針」では、「被災地域の復興は、活力ある日本の再生の先導的役割を担うものであり、また、日本経済の再生なくして被災地域の真の復興はないとの認識を共有する」とされている。

   いずれも、被災地の復興だけではなく、「日本経済の再生」というバラマキに都合のいい言葉が盛り込まれている。

   おそらく各省庁の官僚からみれば、これまで何度も「日本経済の再生」が言われてきて、それに基づいて補正予算を作ったのに、なぜ今になって批判されるのかというところだろう。

   しばしばマスコミでは、2011年度補正予算のときに「全国防災対策費」が入っているのはケシカランというが、それも「東日本大震災復興基本法」に基づくので、今さら批判されても困るという開き直りだ。

   批判されるので、官僚からは今はあえて言い出さないだろうが、2011年度補正予算では、「その他の東日本大震災関係経費」があり、冒頭に紹介した国内立地推進事業の他の立地補助金(2050億円)、雇用対策(3780億円)、住宅関係(3112億円)などで総額2兆4631億円もある。ここは、被災地以外への復興予算の具体例を探すには格好の項目だ。ここを見れば、ツッコミどころ満載である。当分、週刊誌ネタには困らないだろう。

   政府は、震災復興で財源を増税に求め、支出を復興以外に広げるという二重の失敗をした。そのしっぺ返しは大きいだろう。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。