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米国の大統領選挙はイデオロギーの戦い 「大きな政府」(オバマ)か「小さな政府」(ロムニー)か

   2012年11月6日はアメリカという国の今後4年間の行方を決める日になる。

   だが、国内のムードは4年前とまったく違う。当時の米国民は疲弊しきっていた。米国はテロ戦争の泥沼にはまり込み、経済は破綻寸前という状態だった。「チェンジ」と「ホープ」というメッセージを掲げた オバマ上院議員(当時)は 、ブッシュ時代からのリセットを求めていた国民にとって魅力ある候補者だった。

接戦の状態でゴールに突入、まさに写真判定?

   4年間で経済の再建や「オバマケア」と呼ばれる包括的な医療保険制度改革などの公約を実現したが、政治の現実は厳しい。9パーセント以上もあった失業率が7.9パーセントにまで低下し、国民皆保険への道筋を立てたという実績にもかかわらず、オバマ政権の4年間を「期待はずれ」とする国民が半数近くもいる(バブル崩壊後の日本の政治家と比較すれば、オバマ大統領は桁はずれに有能な政治家になるが)。

   この失望感につけこんだのが共和党のロムニー候補だ。「私が大統領になれば、経済はもっとよくなる」という空手形を切りまくり、気がつくと自身を「本当のホープ」の使者と呼び始めた。機を見るに敏な変幻自在の政治家である。

   テレビで実況された討論会(国内で6700万人が見たとされる)で予想以上に健闘したことでロムニー人気に火がついた。選挙戦のホームストレッチでオバマ大統領に追いつき、接戦の状態でゴールに突入。まさに写真判定になるだろう、というのが選挙前の大方の見方である。

   米国の大統領選挙は、イデオロギーの戦いである。資本主義か共産主義かというヨーロッパ近代のイデオロギー対立ではなく、民主主義と資本主義という大枠のなかで「政府の役割」をめぐる対立といえる。つまり「大きな政府」か「小さな政府」か、という選択である。

   といっても政府の規模(政府機関や公務員などの数)が焦点になるのではなく、資本主義の要になる「市場」をいかに取り扱うかが争点になるわけだ。市場というメカニズムに絶対的な信頼を置く人たちにとって、政府は無用の存在でしかない。対照的に市場の暴走を心配する人たちにとって、規制は必要であり、その監視役である政府は不可欠な存在になる。

   このように米政治は市場と政府を二つの極にして揺れ動くことになる。市場に振れれば、規制緩和(自由化)と民営化が主流になり、逆に政府に振り子が戻れば、規制強化と公営化が流れになる。どちらかの極に振り切れることはないので、現実にはどこかで妥協点を見いだすことになるわけだが、選挙戦では相手の立場を誇張することになる。そこで「オバマは社会主義者」(大きな政府は国営化を奨励するという論法)だというような馬鹿げた批判が飛び出すわけだ。

東海岸、西海岸そして南部はとうに情勢決着

   今回の見どころは、米政治の振り子が政府(オバマ)に傾いたままになるか、それとも市場(ロムニー)に反転するかである。

   東海岸、西海岸そして南部に住む有権者にとって今回の選挙は気の抜けたビールのようなものだ。大票田であるカリフォルニアやニューヨークはすでにオバマ支持で固まり、一方テキサスなどの南部諸州では圧倒的にロムニー候補が優勢とされる。両候補は夏以降これらの選挙区に顔で遊説を行っていない。

   焦点になっているのはオハイオ、フロリダ、バージニアなどの10あまりの激戦州である。これらの州が次期大統領を決めるといっても過言ではない。実際、オバマ大統領は投票日前の最後の週末をウィスコンシン、ネバダ、コロラド、オハイオなどで支持を訴え、一方ロムニー候補はアイオワ、オハイオ、ペンシルベニア、バージニアで遊説した。

   このような戦術は、国民が直接大統領を選ぶ直接選挙ではなく間接選挙であることに由来する。つまり11月6日に行われる大統領選挙で選ばれるのは、次期大統領を選ぶ「選挙人」であって、大統領そのものではないわけだ。各州のカウンティ(郡)には人口などをベースにして一定数の選挙人が割り当てられ、ほとんどの州では一位になった候補者がその州の総選挙人を獲得することになる。50州の総選挙人数は538人なので、その過半数である270人を獲得した候補者が勝者になる。全州での得票数で優位であっても、選挙人数で負ければ、大統領になれないわけだ。2000年のゴア候補がその例である。

   今年の選挙の行方は、オハイオ(選挙人数は18人)、フロリダ(29人)、コロラド(9人)、バージニア(13人)、ウィスコンシン(10人)、アイオワ(6人)、ノースカロライナ(15人)、ネバダ(6人)、ミシガン(16人)、ニューハンプシャー(4人)の10州が決めることになる。

   6日の夜は遅くまでテレビの前に釘付けになりそうだ。

(在米ジャーナリスト 石川幸憲)