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【Net@総選挙】 第10回
高まるうねり「次こそ解禁だ」 「新ビジネス」も生まれるか

   「国民が国会議員の政策や活動を十分理解できないまま投票に行く状況が続いている」――。IT企業などでつくる新経済連盟(新経連)の三木谷浩史代表理事は2012年11月6日の記者会見で、そうした現状に疑問を呈したうえで各党にネット選挙解禁を要請した。

   今国会では衆院解散でネット解禁はあえなく「流産」となったものの、「新しい政治」を求める波は年ごとに高まっている。IT業界ではすでにネット選挙さながらの事業展開に乗り出す企業も少なくない。

既得権益者への対抗ネットと規制緩和をめざす

「ネット選挙運動では、政策議論を通して玉石混交の議員のうち誰が『玉』で誰が『石』か明確に区別できる」
「ネット選挙になれば組合勢力と既得権益勢力に影が差す」

   衆議院第一議員会館ホールで11月29日に開かれたシンポジウム「インターネットと『新しい政治』―その実現へ向けて」。登壇した大学教授や若手の国会議員らは約200人の参加者とネット視聴者に、ネット選挙運動のメリットを示して早期実現を訴えた。

   このイベントは「One Voice キャンペーン」が主幹事となって開催した。IT・ネット業界やメディア関係者らがこのキャンペーンの旗振り役で、楽天の三木谷氏が12年6月に設立した新経連も主要メンバーの一員だ。

   新経連は、取り組み課題のメーンに「国民の政治参加の促進」を据え、ネット選挙運動をその手段として位置付けている。

   「2年前の改正薬事法施行で薬のネット販売が大幅に規制された件などを通し、三木谷氏は既得権益団体に支えられた政治の分厚い壁を思い知ったはず」。新経連の関係者はそう明かしたうえで、「既得権者に対抗して規制緩和を図るには、『ネット選挙運動を通して個々の有権者の政治意識を高め、政策への理解を深める必要がある』と三木谷氏は感じたのではないか」と語る。

   「新しい手法で選ばれる政治家こそが、新しい日本をつくる」。ネット選挙を推進する人々にはそうした思いが共通しているようだ。

アメブロを使う政治家が500人

   「国民の政治参加の促進」に向けて、楽天は社会貢献事業として09年7月にクレジットカードで政治家に個人献金できるサイトを開設。大口の企業団体献金なしでも政治・選挙活動ができるような仕組みのお膳立てを試みている。累計の献金申し込み額は4000万円を超えた程度で米国の献金額との比較ではケタ違いに低いとはいえ、利用者は国会議員を中心に約300人に上る。

   新経連の有力メンバーであるサイバーエージェントも、ネット選挙運動の土俵づくりの一環として10年春から政治家のブログを集めた「アメーバ政治家ブログ」を広告掲載なしで設けている。当初の登録者58人が現在約500人まで増えた。最近のアクセス数は11月16日の解散前後から右肩上がりとなり、人気上位の政治家ブログは1日10万~20万件に達するという。

   こうした三木谷氏らの動きとは別に、ネット選挙解禁をにらむIT業者の中にはこんな声も少なくない。「数百億円規模に上る選挙広告費の大半を今はテレビや新聞など従来メディアなどが手にしているが、ネット解禁となればこちら側にも流れやすい。先取りするための準備は早急に整えたい」

ツイッター分析の結果をフィードバック

   一方、米国の大統領選とはスケールが大きく異なるものの、日本でもネット上のデータ分析による選挙コンサルティングの動きが活発化しつつある。

   ソーシャルメディアの分析などを手掛ける「ホットリンク」(本社・東京)は2970万ものブログやツイッターの投稿データをもとに、独自の手法で政党支持率の変化や、政治家の好感度のアップダウンを数値化している。公の場での発言や活動に対し、ネットユーザーは何を感じてどう書き込んだのか、ユーザーが高い関心を示す政策は何かを分析して政治活動にフィードバックしてもらう。

   ホットリンクのツイッター、ブログ分析には定評があり、12年6月の「AKB選抜総選挙」予測では選抜メンバーの上位16人中15人を的中させている。

   同社はまた10月末から、ネット広告コンサルティングの「ルグラン」(東京)と共同で「永田町インデックス」というサイトを運営。ブログ分析の手法の一端を日々公開し、解散日以降はアクセス数も増加した。政治家サイドからのニーズも高まっており、ネット選挙が解禁されれば今以上の需要の広がりが予想される。

   米国の先の大統領選挙では、オバマ選対は大量の人とカネ員をツイッターやブログ分析につぎ込んで次回討論でロムニーをどう攻めるかの参考資料にしたという。ネット選挙が解禁されれば、そうしたプロによる分析能力や選挙マーケティングが、従来型の選挙戦とは全く異なった形で必要とされ、ノウハウに関心が集まることだろう。

   新たな「選挙ビジネス」の専門家が生まれ、ネットを使った集票戦略が国内選挙を左右する日は、日本でも遠い先ではないようだ。