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受験生や保護者、市民から高まる批判 それでも入試中止と強気な橋下市長

   「生徒1人が亡くなったのに何で入試なんかできるのか」「僕を選挙で落とせばいい」――。大阪市立桜宮高の男子生徒がバスケットボール部顧問の体罰で自殺した問題をめぐり、2013年度の同校体育系2科の入試中止方針を打ち出した橋下徹・大阪市長は、各方面からの批判にも動じる気配はない。

   2013年1月17日の記者会見では、市教委が2科の入試中止を拒んだ際には関連予算の執行停止に踏み切る意向を明らかにした。教育評論家の尾木直樹氏らは橋下氏の方針に理解を示す一方、「体罰問題と入試は別」「受験生がかわいそう」といった声は依然多数を占めている。

橋下氏「市民も認識が足りなすぎる」

   「生徒募集をストップして実態解明したほうが子供たちのためになる」「生徒を迎え入れる態勢は今できていない」

   橋下市長は17日午後の記者会見でそう述べ、改めて市教委に桜宮高体育科(定員80人)とスポーツ健康学科(同40人)の入試中止を求めたうえで、市教委をけん制するかのように予算執行権の行使について言及した。

「入試に関する市教委の判断は(1月)21日に出ますけど、間違っちゃいけないのは教育委員会が決めたことに自動的に予算がつくわけではありませんよと。教育委員会には審議して決定する権限はあるんでしょうけど、僕には僕で予算の執行権があるわけですから。それはキチッと行使します」

   つまり市長は、市教委が入試に踏み切った場合は私立高の12年度の入試関連予算の残額約130万円を支出しないことを示唆したのだ。文部科学省によると、地方教育行政法は教育行政に関わる権限と予算権限を分けているため、首長による予算執行停止は法律上可能だが極めて異例という。

   入試中止方針に受験生や保護者、市民から多くの批判が寄せられていることについても

「一番大事なのは亡くなった生徒のこと。生徒が一人体罰で亡くなったのに、(実態を解明せずに)何で入試なんかできるんですか。僕は分からないですね、この感覚は。在校生がかわいそう、受験生がかわいそうとか、そんなことを超えた遥かに重大な問題だという認識が市民にも足りなすぎると思ってますね。改めるといった以上、改めます」

と譲らず、

   「僕に対しては選挙で落とすという手段が有権者には与えられているわけですから」と強気な姿勢を貫いた。

   併せて市長は13年4月の桜宮高の教員人事に関し、「校長や教頭の入れ替えは当たり前ですけど、運動クラブの顧問については全員を最低限入れ替えることは絶対やってもらわなければ困る」と市教委に要望を突きつけ、「クラブ活動の顧問は体育教師の身分で在籍してますから、今いる体育教師がもし新年度も在籍するのなら体育教師分の人件費は執行しないということです」と言葉を強めた。

   新聞報道によると、桜宮高の全教員約70人のうち運動部に関与する教員は56人で、人件費は年間約3億9000万円に達するという。

尾木氏「教師魂で学校再建に動いてほしい」

   入試をめぐる市教委の判断が示される21日を前に、橋下市長VS市教委、受験生、保護者、学校現場etcという構図へのマスコミの関心は高く、各局のワイドショーは18日も市長会見や市民の声などをこぞって取り上げた。

   このうち「モーニングバード!」(テレビ朝日系)では桜宮高の2科志望の受験生を抱えるという中学校教諭が取材に答えて「(入試中止の方針は)生徒や保護者、学校現場に混乱しか招いていない」と市長を批判した。街頭インタビューでは「受験生の立場にたって入試は行うべきだ」との意見が大半で、「救済措置があれば中止もありかもしれないけど現状では…」といった声も。

   一方、体罰問題に詳しい教育評論家の尾木直樹氏は

「確かに入試がなくなるのはビックリすることですが、人の命がなくなったこと、それを全部の教師が見過ごしていたこと、その意味をどう考えるんですか」

と問題提起したうえで、

「ただし僕が期待したいのは、橋下市長にそこまで言われて先生たちは黙っているのか?ということです。教育委員会も生徒も一緒になってこんなふうに再建に取り組もうという動きがでてきてほしいし、そこに期待したい。教師が『教師魂』を本当に持っていれば動きますね」

と語った。

   ゲストコメンテーターの経済学者・飯田泰之氏は「橋下さんは戦略的に(交渉が)上手な人」とし、「入試中止は橋下さんの本当の目的ではなく『釣り球』かもしれない。本命は教員の全面入れ替えかもしれないし、何か本当の狙いがあるのではないか」と話した。