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ソニー、NY本社ビルを売却 はたして「吉」と出るか

   ソニーは2013年1月18日、米ニューヨークの中心部にある米国本社ビルを売却すると発表した。売却先とリースバック契約を結んで最長3年間、ソニーグループのオフィスが入居するので、ただちに「都落ち」するわけではないが、ソニーの退潮を象徴するニュースだ。

   売却額は11億ドル(約980億円)で、約6億8500万ドル(約610億円)の売却益を2013年3月期連結決算の営業利益に計上する。同3月期の営業利益予想を1300億円とするソニーにとって、かなりインパクトのある売却益だ。

独特の装飾的なデザインでニューヨークっ子に有名なビル

   ソニーの米本社ビルの住所は「マジソン・アベニュー550番地」。「マジソン・アベニュー」はニューヨーク・マンハッタン島の中央部、セントラルパークと並走するような形で南北に走る街路。かつては広告企業が軒を連ねたことで知られたが、最近では高級ブランドのブティックが並ぶことでも有名だ。

   ソニーの米本社ビルはそうした、リッチな雰囲気も漂う街にそびえる36階建ての高層ビル。独特な装飾的なデザインでもニューヨークっ子にはよく知られ、2002年に米通信大手のAT&Tからこのビルを取得したときは話題になった。

   今回の売却先は米不動産会社チェトリット・グループを中心とする特別目的会社。ソニーは「財務基盤の強化と今後の成長のために投資の厳選、資産の売却などに努めており、今回の米本社ビル売却はその一環」と説明している。実際、米本社ビル以外にも、JR大崎駅前の自社ビル「ソニーシティ大崎」などの売却も検討しており、なりふり構わぬ格好になっている。

本業の収益力回復は待ったなし

   市場の反応は好意的だ。格付け会社のムーディーズ・ジャパンは1月21日、「ソニーの信用力上、ポジティブ」とのコメントを発表した。ムーディーズは理由として「この売却がソニーの流動性(手元資金)の改善につながる」と指摘。関連費用控除後の売却収入が7.7億ドルに達し、これは昨年9月末時点のソニーの金融を除く事業の現預金(4225億円)の15%超に相当する規模であるため、財務体質が改善すると判断したというものだ。

   ただ、ムーディーズが指摘するまでもなく、米本社ビルの売却益は「非経常的(一時的)なものである」。従って、「中核事業からの収益の改善が不可欠」なのは言うまでもなく、2013年3月期も赤字を垂れ流し続ける見込みのテレビ事業の立て直しなど、本業の収益力回復が待ったなしという状況に変化はない。

   今年初めに米ラスベガスで開かれた家電見本市「CES(セス)」で、パナソニックが「脱テレビ」を掲げ、白物家電を初めて本格展示したほか、企業向け事業の拡大などを打ち出したのに対し、白物家電を持たないソニーはあくまでもテレビやスマートフォンといったAV・情報家電の主戦場で攻勢をかける意思を表明した。ソニーとして反転攻勢をかけるため必要なカネをかき集める手段でもある米本社売却。はたして「吉」と出るか。