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円相場、このまま円安が続くのか 期待先行と口先介入には限界が

   2013年2月中旬にモスクワで開かれた主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は、通貨安競争をしないことを確認する一方、日本への名指しでの円安批判を回避したことから、会議後も円安基調が続いた。

   ただ「円安誘導」にもクギを刺されたことから、円相場の行方は不透明となり、その後、イタリア総選挙の結果を受けて急激な円高になるなど神経質な展開となっている。

近年の通貨外交でまれにみる大成功?

   会議は、日米欧の大規模な金融緩和に対して一部の新興国が反発したが、「金融政策は景気回復を支援しつつ、国内物価の安定に向けられるべきだ」とする一方、「通貨の競争的切り下げを回避し、競争力強化のために為替レートの目標を設けない」との文章を盛り込み、輸出を増やすための「通貨安競争」をしないことを明記した。

   円安への直接の批判はなく、「アベノミクスがひとまず世界のお墨付きを得た」(大手証券)との見方から、会議後も円安基調が続いた。

   今夏の参院選勝利(衆参のねじれ解消)を「至上命令」とする安倍晋三首相にとって、経済政策で得点を稼ぐのは最重要事項で、そのためには現在の円安・株高の流れを維持することが不可欠。

   他方、2014年4月の消費税率アップを確実に実施したい財務省は景気腰折れ回避のため、先の予算編成での大盤振る舞いに続き、G20に向けても全力を注いだ。

   そのポイントがG20に先立つ2月12日の先進7か国(G7)財務相・中央銀行総裁の共同声明にある。日銀の金融緩和があくまで国内問題のデフ レ脱却を目的にするものであり、通貨安競争には当たらないと「理論武装」し、各国に強力に根回し。その結果、現在の財政・金融政策が「国内目的の達成に向けられている」との文言を盛り込む声明発表に漕ぎ着け、「近年の通貨外交でまれにみる大成功」(財務省関係者)を勝ち取った。

米国が支援に回ったのが「決定的だった」

   もちろん、先進国にも温度差はあったが、米国が「日本のデフレ脱却を目指す努力を支持する」(ブレイナード財務次官)と、支援に回ったのが「決定的だった」(財務省)といい、この流れがG20につながった。

   ただ、G20共同声明の「競争力強化のために為替レートの目標を設けない」」との文言は「円安誘導」の明確な否定であり、安倍内閣は、厳しくクギを刺されたといえる。

   安倍首相は2012年の総選挙の中で「金融政策で円高是正するのは当然」と言い放ち、自民党の公約には、官民ファンドでの外国債券購入を盛り込んだ。1月に、首相の最大の経済ブレーンである浜田宏一内閣官房参与が「(1ドル)100円は非常によい境界線」と発言。政府、与党幹部から呼応する声が上がるなど、口先介入の誘惑は続いている。

   安倍首相自身、2月18日の参院予算委員会で「金融緩和はデフレ脱却が目的で、為替操作していたずらに円安に導いているわけではない」と釈明しつつ、金融緩和の具体的手段は日銀に任せると言っていたはずが、日銀の金融政策の手段として「外債を買うという考え方もある」と述べ、麻生太郎副総理兼財務相が翌日の記者会見で「外債を購入する気はない」と否定すると、安倍首相が20日の予算委で「(外債購入ファンドの設立の)必要性は薄まっている」と、軌道修正するなど、迷走した。

「G20により外債購入は禁じ手になった」

   これらの発言を受け、外国為替市場の円相場は、2月18日の安倍発言を受けて1ドル94円前後となったのが、19日の麻生発言後は93円台半ばへと円高にふれるなど、一喜一憂する騒ぎになっている。

   その後も、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を中心に、日米首脳会談での成果や、次期日銀総裁として黒田東彦アジア開発銀行総裁が内定したとの報道もあり、25日の相場は大きく円安にふれた。

   ところが、翌26日にはイタリア総選挙で、財政再建路線の継続を掲げた中道左派連合による政権成立が難しくなったことから、東京外為市場の円相場は前日比2円程度、円高・ドル安の1ドル91円台で推移。対ユーロでも同4円程度の円高・ユーロ安の1ユーロ120円前後と、急激に円高に動いた。

   イタリアの信用不安が高まれば、欧州の債務危機への再燃懸念が強まり、市場にも再び円高進行の気配が漂うことになる。

   こうした神経質な展開が今後も予想されるなか、市場では「G20により外債購入は禁じ手になった」(エコノミスト)との見方が支配的。露骨な口先介入も「やりにくくなった」(金融筋)との声が多い。「現時点ではまだ経済政策の実績がないまま、期待先行と口先介入で円安を演出しているだけ」(エコノミスト)といわれる安倍内閣にとって、難しい舵取りが続く。