J-CAST ニュース ビジネス & メディアウォッチ
閉じる

「25年後、福島第一原発は観光地に」 ネットで物議「不謹慎」「現場を馬鹿にしているのか」

   25年後、福島第一原発を観光地に――思想家の東浩紀さんらがぶち上げた計画が、ネットで物議を醸している。

   記憶の風化を防ぐために、跡地の保存やビジターセンターの設立を軸に有識者が集い議論などをおこなう試みだが、「除染も済んでいないのに不謹慎だ」などと非難が多く出ている。

「今も現場で対応に当たってる人がいるのを想像できんのか」

   計画は、除染が十分に進み、一般市民が防護服なしに、福島第一原発から数百メートルの距離まで安全に近づけるようになった、25年後の未来を想定したものだ。この構想は昨年秋ごろに持ち上がり、実行委員会ができた。東さんのほか、社会学者で『フクシマ論』著者の開沼博さん、ジャーナリストの津田大介さんらが名を連ねている。

   13年3月9日に発表された計画によると、跡地の保存とJビレッジ周辺の再開発を柱に、2036年の福島第一原発跡地に、どのようにひとを集め、どのような施設を作り、なにを展示しなにを伝えるべきなのかを検討し、そのビジョンを中心に被災地の復興を考えるというのが、主旨だそうだ。

   しかし、インターネット上ではこの計画に対して、廃炉にできるかも、除染がいつ終わるかも分からないのに物見遊山とは不謹慎だ、と憤る人が少なくない。

「今も現場で対応に当たってる人がいるのを想像できんのか」
「25年後を想定してるらしいが、いま懸命に収束作業してる俺らにしてみれば、なんだか馬鹿にされてる気分になるのは俺だけだろうか」
「阪神淡路大震災後、焼けた長田地区の瓦礫をバックにピースサインで写真を取る人達がいた。そばで瓦礫をかきわけ、家族を探している人がいるのに…。この『計画』もそんなイメージしかわかず、悪質!」

などとツイッターには否定的なコメントが相次ぐことに。「『観光地』という言葉についての不毛な争いになる危険もあると思うのだが」と総合研究大学院大学の伊藤憲二教授(科学史)はツイッターで指摘している。

チェルノブイリでも観光ツアー

   ネットでは非難轟々だが、暗い歴史を持つ場所が観光地になることは世界的にも珍しくない。こうした旅行は観光学では「ダークツーリズム」と呼ばれていて、東さんも今回の計画が、1986年に原発事故のあったチェルノブイリで2011年から公式観光ツアーが実施されるようになったことを受けたものだと話している。それ以前も闇ルートで侵入を試みる人が相次いでいたという。第二次世界大戦でナチスによるユダヤ人大量虐殺の舞台となったアウシュビッツ=ビルケナウ強制・絶滅収容所でも、観光客向けにガイドつきのツアーが実施されている。

   また、日本国内でも広島の原爆ドームや沖縄のひめゆり平和祈念資料館、熊本の水俣病資料館など、悲惨な記憶を風化させず、そこから教訓を学び取るための施設はあり、そこを目的地とする修学旅行や観光旅行も一般的だ。

   東さんは今回の計画について、福島第一原発観光地化計画研究会アフタートークのなかで、「何もしなくても、自動的に観光地化される。25年もすれば自然に観光地になってしまう。我々がわざわざ観光地化する、という話じゃない。観光地化されてしまうときに、どうコントロールするかという話」と説明している。

   ただ、現実的な問題として、「チェルノブイリは1基、フクイチは4基。今は汚染水の処理で手一杯。25年後、観光地にできる状態になっているだろうか」と懸念を示す人もいる。また、元国連職員でライターの谷本真由美さんはツイッターで、チェルノブイリについて「観光地じゃないです。あの辺のことを話すのはタブーですよ。ウクライナやベラルーシ出身の同級生いたから…」などと書いている。