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和歌山県警科捜研主任研究員が書類捏造 毒物カレー事件捜査に波及する可能性ないのか

   和歌山県警の科学捜査研究所(和歌山市)の元主任研究員が、証拠品の鑑定結果を上司に報告する際に書類を捏造した疑いがあるとして書類送検され、在宅起訴後に開かれた初公判で捏造の事実を認めた。

   この元主任研究員の勤務歴は25年以上に及び、4人が死亡した1998年の毒物カレー事件捜査にも関わっていた。不正は長期間にわたって行われた模様だ。カレー事件での不正は行われていないとされるが、同事件で09年に死刑が確定した林真須美死刑囚は一貫して無実を訴えており、再審請求中だ。科学捜査への信頼が大きく損なわれることになりそうだ。

別事件の写真やデータを流用して鑑定資料を捏造

   捏造を行っていたとされるのは、和歌山県警科学捜査研究所の元主任研究員、能阿弥昌昭被告(50)。

   起訴状などによると、能阿弥被告は10年5月~12年1月にかけて、変死事件など6事件の鑑定で、書類に過去の別事件の写真やデータを流用して証拠を偽造したとされる。12年6月には、警察署長宛ての鑑定書類に勝手に科捜研署長の公印を押し、決済済みを装って交付していたとされる。

   いずれも裁判の証拠には採用されなかったという。

   県警は12年12月17日に証拠隠滅と有印公文書偽造・同行使の容疑で書類送検し、和歌山地検が13年3月28日に在宅起訴していた。

   能阿弥被告は事件発覚後の12年7月に県警を休職し、書類送検された12月に依願退職した。

   13年5月8日に和歌山地裁(浅見健次郎裁判長)で開かれた初公判では、能阿弥被告は起訴内容について「間違いありません」と認めた。検察側は懲役2年を求刑し、弁護側は執行猶予つきの判決を求めて結審した。判決は6月13日の予定。

覚醒剤取締法違反などの19事件で同様手口の不正があった?

   能阿弥被告は1985年から科捜研に勤務しており、化学分野の鑑定が専門。書類送検前の12年8月の報道を見ると

「捜査関係者によると、研究員が関わった1998年の毒物カレー事件では捏造はなかった。引き続き過去の事件にさかのぼって捜査を続ける」(共同通信)
「県警は調査の結果、同事件に関する不正はなかったと結論付けた」(読売新聞)

と、カレー事件での捏造行為は一応否定されている形だ。ただ、研究員がカレー事件で何に関わったのははっきりしないうえ、書類送検直後の12月18日の読売新聞の記事では、

「県警は公訴時効が過ぎており、立件は見送ったが、1998年から2003年に、覚醒剤取締法違反などの19事件で同様手口の不正があったと明らかにした」
「資料が残っていないため、不正の有無がわからない鑑定もあったという」

と、かなりの余罪がある模様だ。

   カレー事件の裁判では、林死刑囚の自宅から見つかった、微量のヒ素が付着したプラスチック容器が重要な物証だとされた。だが、発見されたのが事件から2か月も後だったことなどから、弁護側は「捏造」だと主張してきた。それ以外の、ヒ素が付着した紙コップなどの物証についても、林死刑囚の犯行を裏付けるものではないとしていた。

   林死刑囚は、雑誌「創」10年8月号に掲載された手記の中で、

「動機もない、自白もない、犯行の目撃もない、私の指紋も何も証拠がない、捜査側の警察、検察官の作りだし、証言させた膨大なる状況証拠より、それも犯行、犯罪の証明があるわけではなく、『推認できる』として『犯人だ』、それも『死刑だ』とされてしまいました」

と死刑確定後も無実を主張し続けている。