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ロングボール攻撃で日本代表不利? サッカー「オフサイド」の適用変更

   サッカーのルール「オフサイド」を巡り、国際サッカー連盟(FIFA)がその解釈を一部変更した。国内外の試合では今後、「新規則」が適用される。

   あいまいだった記述が明確化する部分もあるが、選手や審判はプレー中の対応が難しくなる場面が出そうだと、サッカージャーナリストは指摘する。

「偶発的」か「ミスキック」かで判定が180度変わる

オフサイドの判断が難しくなりそうだ
オフサイドの判断が難しくなりそうだ

   FIFAによる解釈変更を受けて、日本サッカー協会(JFA)では2013年7月2日、改正点についてウェブサイト上で映像を用いて具体的に説明している。審判員の資格を持ち「フットボールレフェリージャーナル」を運営するサッカージャーナリストの石井紘人氏は、JFAの講習会に参加して上川徹審判委員長の説明を受けたという。今回の変更で「オフサイドのジャッジが複雑になる」というのが率直な感想だと話す。

   わかりやすくなったのは、守備側の選手が意図的にバックパスやボールクリアした際に、オフサイドの位置にいた選手がボールを奪った場合はオフサイドにならなくなる点。相手の攻めを嫌がって安易にキーパーにバックパスを繰り返せば、失点するリスクが増えそうだ。

   一方で石井氏が危惧するのは、こんなシーンだ。例えばシュートされた球が守備側の選手に「偶発的に」当たり、オフサイドの位置にいた攻撃側の選手の下に転がってきてその場所でボールに触れれば、判定はオフサイド。ところが同様のプレーでも、守備側の選手が意図的にクリアしようとしてミスキックし、その球がオフサイドの位置にいた攻撃側の選手に渡った場合はオフサイドではない。そのままゴールすれば得点が認められることになる。

   守備側の選手にボールが当たった際、単にはね返っただけか蹴りだすのに失敗したかで判定は180度変わるが、審判にとっては見極めが難しいケースが出るだろうと、石井氏は指摘する。

   監督の采配にも変化が生じかねない。JFAの講習会では、相手ゴール付近のオフサイドの位置で攻撃陣を「待ち伏せ」させ、ロングボールを蹴らせて相手の守備のクリアミスを誘うようなプレーが増えるのではないか、と心配の声が上がったという。石井氏は「代表クラスの試合で、確率が高くない相手守備のミスを待ち続けるようなゲームプランが多くなるとは思えません」と話す一方、技術的に未熟な子どもの試合では、今回の変更を利用したプレーが頻発しないとも限らないと考える。

パワープレー得意な豪州、韓国には有利か

   守備を任される選手にとって、今回の変更は厄介だろう。相手攻撃陣がオフサイドの位置にいても、自分のプレーによっては相手の反則とならず不利な判定が出されるからだ。自陣に球が飛んできて、ヘディングでクリアしようとしたら失敗して後ろにそらし、こぼれ球がオフサイドポジションの敵に渡れば即失点につながりかねない。逆にクリアしようとせず球に触らないままであれば、相手はオフサイドをとられる。だがもしそのボールが、オフサイドでない位置にいた敵のプレーヤーに奪われたら一大事だ。「ディフェンダーは、攻め手が来れば当然防ごうとする。でも場合によっては、必死にボールをクリアしようとした行為がかえってピンチを拡大することになりかねなくなります」(石井氏)。

   代表クラスの選手にとっても、たとえ戦術面に大きな影響をもたらさないとしても、とっさのワンプレーがもたらしたオフサイドの判定がゲームの行方を大きく左右する可能性がある。どうしても得点がほしい試合展開なら、終盤でロングボールを蹴って一気に前線に放り込むケースは少なくない。「豪州や韓国のように、日本よりもパワープレーが得意な代表チームにとっては有利になるかもしれません」と石井氏は話す。

   実は日本代表の戦いで近年、今回の変更の「教材」となり得る場面があった。2011年1月14日、アジア杯1次リーグの日本-シリア戦。後半24分、DF今野泰幸選手のバックパスの勢いがやや弱く、相手選手が奪おうとゴールに駆け寄ってきたところでGK川島永嗣選手がクリア。ところがボールが再び相手選手の足元に飛び、蹴りだされた球はオフサイドポジションで待っていた別のシリア選手に届いた。そこへ川島選手が飛び込んでシュートを防ごうとしたところで主審が笛を吹いたのだ。

   線審はシリア側のオフサイドと判定したが、主審はこれを認めず川島選手の反則としてレッドカードを突きつけた。当時はこのジャッジが議論を呼び、石井氏も「厳しい」とうなったそうだ。だが今回の変更に照らせば「主審は正しかったことになります」。攻撃側に有利となるであろう改正が、2014年のワールドカップブラジル大会でドラマを生むかもしれない。