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「橋下批判」書かれた本、出版中止になっていた 東京新聞の報道で議論再燃

   政治学者の中島岳志氏(38)の著書「『リベラル保守』宣言」が、日本維新の会の橋下徹共同代表を批判した記述があるとして、一旦出版中止になっていたことが東京新聞で報じられ、話題になっている。

   同書は当初「リベラル保守」というタイトルで、NTT出版から2013年2月25日に発売される予定だった。

「NTTは公共的なので、特定の政治家や政党批判は問題になります」

   ところが中島氏が13年2月27日、ツイッターでフォロワーからの問い合わせに対し「『リベラル保守』は事情があり、版元が変わりました。6月ごろに新潮社から出版の予定です。『事情』はとても重要な問題なので、改めて書こうと思います」とツイート。NTT出版も3月6日、公式サイトで「リベラル保守」について「諸般の事情により刊行中止となりました」と説明した。

   同書は「『リベラル保守』宣言」とタイトルを変え、中島氏の予告通り新潮社から6月28日に無事発売された。あとがきには、版元変更の経緯が詳しく書かれている。

   本に収録されている文章は雑誌「表現者」に連載されたもので、連載が始まった頃にNTT出版の編集者から「いずれ連載や論考をまとめて一冊の本として出版したい」との申し出があり、快く受け入れた。12年に入ってから出版化の話が進んだが、突然編集者から「第三章に手を入れてほしい」と要請された。第三章は「橋下徹・日本維新の会への懐疑」というタイトルで、橋下氏と日本維新の会を批判的に論じた内容だ。

   編集者は「NTT出版は、NTTという公共的な親会社のもとにあるため、特定の政治家や政党に対する批判を出すことが問題になるんです」「内容を変えていただく必要は一切ないので、章のタイトルから橋下氏の名前と政党名をとり、章の冒頭部分を一見すると、橋下氏への批判とはわからないように大幅に加筆してほしい」と懇願したという。

「NTT出版の内部に働く『自主規制』と『過剰忖度』を強く感じた」

   中島氏は章のタイトルを「革新を叫ぶ保守への懐疑」に変更し、本文冒頭に数行の文章を加えて校正紙を送ったが、編集者の上司から「第三章をすべて削除し、他の本文中の橋下批判も削除・書き換えの方向で検討してほしい」「会社の性格上、特定の政治家・政党に対する批判を出すことはできない」と言われた。中島氏は「削除の要請には絶対に応じられない」と言い、結局折り合いがつかず出版直前で刊行取りやめになったと書かれている。

   NTT出版はそれまで政治家・政党批判が含まれる書籍を出版していたが、これについては「特定の政治家・政党批判ではなく、背景にある社会への批判だから問題ない」と返答されたという。中島氏は当時「週刊朝日」に掲載された佐野眞一氏の橋下氏に関する連載記事が大問題になっていたことを挙げ、「NTT出版の内部に働く『自主規制』と『過剰忖度(そんたく)』を強く感じました」としている。

   中島氏はこの件について13年6月27日にもツイートし、フォロワーの反響を呼んでいたが、8月18日に東京新聞が一面で大きく報じたことで議論が再燃した。

   インターネット上では「この問題は看過出来ない!詳細は不明だが、業界の表現の自由等に対する真摯な信念が問われていると思う!」「NTT出版に表現の自由はないってことね」「出版社としては最悪の選択であるな」などの批判意見が書き込まれている。

   なお、NTT出版は「特定の個人や団体の利益になる本も、不利益になる本も出さないことにしており、週刊朝日の問題とは関係ない」「親会社の意向が影響することもない。社として本の内容をきちんと把握できていなかったことが対応遅れの原因」と、中島氏のあとがきの内容を一部否定している。

中島氏「日本で最も危険な政治家」VS橋下氏「どうしようもない教員」

   中島氏と橋下氏はかつてバトルを繰り広げたこともある。

   中島氏は11年11月、雑誌「創」に掲載された「橋下徹『ハシズム』を支えているものは何か」という記事で橋下氏批判を展開しているほか、ウェブマガジン「マガジン9」の連載で「大阪都構想を実現すればすべてがうまくいくかのような幻想をふりまき、既得権益を徹底的にバッシングすることで支持を獲得するあり方は、非常に危険だと言わざるを得ません。また、そのような独断的で断言型の政治家を『救世主』と見なす社会のあり方も問題だと思います」として、「今や日本で最も危険な政治家となった橋下氏」とまで書いている。12年1月発売の本「ハシズム!―橋下維新を『当選会見』から読み解く」(第三書館)にも寄稿した。

   一方の橋下氏は12年1月、ツイッターで「税金で養われている北海道の中島とかいう教員はどうしようもない」「この中島とか言う学者に改革の一つでもやってもらいたいよ。大阪氏の特別参与と言うポジションを与えるからさ。(中略)まあこの中島氏、市役所で会議一つも開けないだろうけど。ほんと税金の無駄」「ダブル選挙前に区割り案を作れ!って、中島氏は一体どういう思考回路をしているのか不思議でならない。まあ学者だから仕方ないか。何一つ実行しない人だから」などと数日間にわたって批判ツイートを展開した。

   中島氏は南アジア地域史研究が専門で、05年に「中村屋のボース」(白水社)で大佛次郎論壇賞を受賞している。