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「販売価格を維持して投資を回収しようとする行動は自然」 経産省のメーカー後押し政策に公取が反発

   メーカーが小売店に販売価格を指定することが違法とされている問題で、経済産業省と公正取引委員会の綱引きが激しさを増す気配だ。価格指定を禁じている流通・取引慣行ガイドライン(独占禁止法の運用指針)の改正を目指す経産省に対し、法を所管する公取委は「競争を阻害する」として、改正に慎重な姿勢を崩さない。

   電気製品などにはその昔、「定価」があった。その後、少し緩んで「希望小売価格」になり、さらにメーカーのタガが外れて「オープン価格」になった。価格設定は自由ということだ。

価格指定を容認するよう公取委に求める

   1990年代、家電業界を起点に、食品業界などにも拡大し、価格決定における小売りの重みが一気に増した。背景には1989~90年の日米構造協議がある。日米貿易不均衡の是正を目指し、米国は日本市場の閉鎖性を批判、内外価格差が社会問題化していたことと相まって、専売制や返品制といったメーカー主導による流通の系列化が高物価の一因とされたのだ。これらを受けて1991年に運用指針が策定された。

   経産省は、有識者らを集めた議論を踏まえて6月にまとめた報告書で、メーカーが「販売価格を維持して投資を回収しようとする行動は自然」だとして、価格指定を容認するよう公取委に求めた。メーカーが小売店に対して「最低販売価格」を設定できるようにして安値競争の行き過ぎに歯止めをかけるのが狙いで、「収益の改善により新商品の開発を促進する」とも訴える。

公取委は「見直しは考えていない」

   これに対し公取委は「(小売店の)再販売価格の拘束は独禁法でも禁じられており、見直しは考えていない」と反論し、極めて慎重だ。

   経産省が見直しを目指すのは、日本の流通実態が変わってきたとの問題意識がある。「ネット販売や量販店が台頭する現代に合わせた規制にすべきだ」(経産省)ということだ。実際、「優越的地位の濫用」というように、量販店など力を付けた小売業者が、むしろ川上のメーカーより優位になり、特売への協力を強制するなどの事案も続発し、公取委も「優越的地位の濫用に関するガイドライン」を設けるなど、力関係は様変わりしている。

   この問題をめぐっては、一般紙はまだほとんど報じていないので、日経新聞の「独壇場」といった趣だが、「見直し」の方向にもっていきたいと思わせるような報道が目立つ。6月19日夕刊の1面トップに「メーカーの価格指定容認 経産省・公取委 安値競争緩和めざす」の見出しが躍り、「経済産業省と公正取引委員会は、メーカーが小売店に販売価格を指定することを容認する検討に入った」とし、翌20日朝刊では「経産省は19日、独禁法の運用指針の改正を求める有識者会議の提言をまとめた。これを受けて公取は1991年施行の指針を見直す方向だ」と、すぐにでも見直しが実現するかのような記事になっていた。

日経は「必要に応じて見直す」と強調する形で報じる

   これに関し、公取委の山本和史事務総長が6月26日の定例会見で「少なくとも,メーカーによる小売業者に対する価格指定を容認するという方向での見直しを行うつもりはありません」と明言した。ところが、翌27日の日経朝刊は、山本氏が一般論として「(指針制定から)20何年かたっていますので、……、必要に応じて見直しを行うことというのはあると思います」と語ったことを引き、「必要に応じて見直す」と強調する形で報じた。しかし、公取委の姿勢はなお固く、7月11日朝刊で「メーカー価格指定で溝」と、両社の対立で難航していることをまとめた記事を掲載、見直しの賛否二人の識者の談話も載せるなど、軌道修正を図った形だ。

EUは価格指定を新製品の販売を促す限りにおいては認める

   今後、公取委が柔軟姿勢に転じるかは、予断を許さないが、参考になりそうなのが、欧州連合(EU)の取り組みだ。日本と同様、価格指定は原則として禁じているが、新製品の販売を促す限りにおいては認めるようになった。新製品発売後、短時間で値崩れするような近年の家電製品のような状況では、メーカーの製品開発意欲が殺がれるという理屈で、例えば発売から半年など期限を切って「最低販売価格」を認め、一定価格以上で販売できるようにしようという考えだ。

   いずれにせよ、家電などの日本メーカーが、「技術で勝って製品で負ける」と言われるような製品開発・販売手法を見直し、真に消費者の心をとらえ、利益を上げられる企業に生まれ変わることが、安値競争脱却の大前提なのは言うまでもない。